Ethno nationalism〜激動〜-14
「チアーズ」
2人はグラスを重ねた。
マリアはひと口飲んで、
「少しクセがある味ね。これは?」
佐伯はマッカランを一気に飲むと、優しく答える。
「マンハッタンさ。ライ麦ウイスキーベースのね。別名、カクテルの女王と呼ばれる」
「美味しいわ」
「君にぴったりだと思ってね」
佐伯のアピールに、マリアは不敵な笑みを浮かべて、
「台詞が馴れてるわ。何人の女性にそう言ったの?」
「心外だな。初めて言ったのに」
2杯目のマッカランを傾ける佐伯。その熱い眼差しは、マリアを捉えて離さない。
スーパーで買物を終えた藤田と静代は、歩いて夜道を帰って行く。
袋いっぱいの荷物を抱える藤田。そのとなりに静代。冷たい夜風が頬を撫でる。
俯く静代の表情が固い。だが、闇がそれを隠していた。
「ずいぶんと冷えて来たな…」
藤田の言葉に静代は答えずに言った。
「私ね。結婚してたの……」
いきなり聞かされた過去に驚く藤田。しばらくの沈黙。
かまわず静代は続ける。
「愛したひとと25で結ばれたわ。でも、子供が出来なくて……」
藤田は黙っている。
「…やがて荒んでいった……」
静代の声音が変わった。
「もう、止めろ」
藤田は静かに、しかし力強く静代を遮った。
「…昔を引きずっていては前に進めないよ……」
俯く静代。
「…そうね。ナオさんの言う通りね」
藤田は彼女の横顔を見つめて、
「…ありがとう……オレなんかに打ち明けてくれて……」
月明かりが、見つめる2人の顔を映し出していた。