Ethno nationalism〜激動〜-12
「あなたが予約したの?」
マリアは佐伯の腕に手を回しながら、笑顔で覗き込むように彼を見る。
「香港のレストランには劣るかもしれないが…」
佐伯も笑顔でマリアに答える。
テーブルに着く2人の元へ、ウェイターがデキャンタを持って来る。ウェイターは、佐伯のグラスにワインを注いだ。
佐伯はワインを口にふくむと、唇をすぼめて口内に空気を入れ、鼻から息をはいた。
濃厚なアロマが口いっぱいに広がる。
佐伯が頷くと、ウェイターはうやうやしい仕草で彼とマリアのグラスに注いだ。
「じゃあ、2人の出会いに乾杯だ」
佐伯の言葉にグラスが重なる。
マリアがひと口飲んだ。
「素晴らしいアタック…バローロの79年ね!」
その答えに佐伯は首を振り振り感嘆する。
「…驚いたな……そこまで分かるとは…」
マリアは肩をすくめて、いたずらっぽい笑顔を見せた。
「以前に何度か飲んだ事があるわ。この年は天候が良くて品質が最上だって。でも、これだけのブィンテージをよく探し出したわね」
今度は佐伯が笑顔を見せて、
「〈アタック〉なんて言葉を知ってるなんて、君も相当なワイン通だな。バローロはたまたまホテルにあったらしいんだ…」
料理が運ばれてきた。
真鯛のカルパッチョ風から始まり、バーニャカウダからメインのパスタやサルティンボッカ。
そしてデザートのスフォリアテッレを2人は料理やワインを充分時間を掛けて楽しんだ。
食事中、ワインのせいもあるのか、マリアは饒舌になり、佐伯に語り掛ける。
そんな彼女を佐伯は、時には相づちを打ち、時には意見を交えながら会話を楽しんだ。
2本目のワインが空になった頃、マリアの目が妖しく光る。
「久しぶりに最高の食事だったわ。エイジ」
「気に入ってもらえて嬉しいよ。マリア」
2人は心を許し合い、お互いをファーストネームで呼び合っていた。
「まさか、これで終わりじゃないでしょうね?」
誘うような目で、マリアは語り掛ける。
佐伯はニヤリと笑って答えた。
「これからさ……君への想いを、たった一夜で語るには少な過ぎる……」
佐伯が席を立って、
「ここからがスタートさ」
マリアは佐伯と共に店を後にした。