Ethno nationalism〜激動〜-11
「佐伯ですが?」
日本語の佐伯の声に、相手は英語で答えて来た。
「ミスター・サエキ?」
聞こえて来た甘い声に、佐伯は弾んだ声で反応する。
「ミス・コーエン!」
「ごめんなさい。もっと早く連絡しようと思ってたのに、つい観光に夢中で…」
佐伯の頭に、数日前の香港での出来事が甦る。
「ハハ…よほど日本が気に入ったみたいだね」
「エエ、特に京都は印象的だわ。様々な建築物はもちろんだけど、嵐山の自然の素晴らしさには心奪われたわ」
今の嵐山と言えば紅葉のピークだ。彼女を誘った友人は、よほど日本に詳しいのだろう。
「ところでミス・コーエン。今はどちらに?」
「実は、今から福岡空港にむかうところなの……明日1日観光して、明後日には香港に帰るのよ」
「偶然だな。実はボクも福岡に居るんだ」
「まあ!なんて事なの」
マリアの驚きの声に佐伯は、この機とばかりに彼女にアピールする。
「今日の予定は?」
「特に…何も無いわ。ホテルに行くだけよ」
「だったら会わないか?これも何かの縁だ。それに、このまま君と別れるのは偲びないよ」
佐伯の言葉に、彼女は即座に答えた。
「分かったわ。私は夕方5時半にはそちらに着くから」
「迎えに行くよ」
マリア・コーエンとの電話が切れた佐伯は、再び藤田に連絡を入れると予定を1日ズラしてくれるよう頼んだ。
ー夕方ー
「ミス・コーエン!」
「ミスター・サエキ!」
夕闇深まる頃、佐伯は国内線ロビーでマリアと再会した。
香港で出会った時とは見違える程ハツラツとして美しい彼女を見た佐伯は、迎えに来て良かったと思った。
マリアの荷物を佐伯が手にすると、2人はロビー出口に待たせてあるハイヤーに乗り込こみ、彼女の宿泊先であるイルパラッ〇オへとむかった。
チェックインを済ませたマリアを伴い、佐伯はホテルのレストランへと向かう。
ココ・シャネル自らがデザインしていた時代の、アイボリー主体のドレスに身を包むマリア。対して佐伯は、ガンメタリックのヴェルサーチ・スーツで彼女をエスコートしていく。