Ethno nationalism〜激動〜-10
その目を見つめた藤田は再び笑みを浮かべて、
「…ホットを……」
「…はい……」
静代はカウンターの奥へと歩いていった。
街は秋の暖かい風から、初冬の冷たい風に移り変わりつつあった。
ー北九州ー
東京、大阪、福岡と、すべての商談を終えた佐伯は、安堵感よりも、藤田の撮った映像を待ち切れない思いで、宿泊先のホテルから電話を入れた。
数コールの後、いつもの静かな口調が受話器から聞こえた。
「こんにちは。佐伯です」
「どうだった?商談の方は」
「そっちの方はバッチリ上手くいきましたよ」
「じゃあ今日にでも来るのかい?」
佐伯は腕時計を見ると、
「そうですね。今から昼食を摂りますので、夕方にでも自宅に伺います。それからにでも……」
「分かった。準備して待ってるよ」
「それじゃあ後ほど」
佐伯は連絡を終えると、ホテルの最上階にあるレストランへと部屋を出掛ける。
しかし、広い展望レストランでひとり食事をするのは味気ない。
(むこうに行くか……)
思い立った佐伯は直ちにホテルをチェックアウトすると、新幹線で藤田の待つ福岡市へと向かった。
佐伯からの電話を終えた後、藤田は数日ぶりに暗殺のビデオを眺めていた。
すでに10日以上前の出来事だが、何度見ても画面から伝わる迫力により頭が熱くなるのを覚える。
(…しかし、これほどの規模で……)
藤田の中に疑問が浮かぶ。
殺害のためには、ターゲットの正確な情報はもちろんだが、それ以前に爆弾をセットアップする必要が有る。
だが、場所は中東ベイルートの繁華街。そこで人目に付かないように作業をやるには、並の集団では無理だ。
(なるほど……)
おぼろげながら、全体像が見えてきた。
藤田は、再び映像に見入った。
佐伯の乗る新幹線が博多駅に到着した。これから昼食を摂って、藤田に会いに行こうと思っていた矢先、携帯が鳴り出した。
佐伯は駅ホームでディスプレイを見た。初めて見るアドレスだ。