不確かなモノ-1
舌を絡ませながら、私の口内を隅々まで犯す…彼に押さえ付けられたまま、今の私は何とか立っていられる状態。
息を吐く隙さえ与えて貰えない激しいキスに、仕事中にも関わらず意識が朦朧としている。
どうしてこうなってしまったんだろう…頑張って考えてみても、分からない。
そもそも私達って、いったいどんな関係?
『知人』・『友人』・『恋人』
どの言葉も正しい様でいて、きっとどの言葉も当てはまらない。
こんな時、いつも思う。
私って…貴方の何?
「こんにちは。チェックインのお手続きでいらっしゃいますか?」
「えぇ。お願いします、初見 更砂さん」
「え?」
あぁ、なんだ…霜村か……
一瞬、誰だか分からなかった。
満面の笑顔でお出迎えをした私の目の前に立っていたのは、高校卒業以来初めて見る彼の姿…霜村 倫太郎(シモムラ リンタロウ)の姿だった。
まさかこんな所で再会することになろうとは……
「お久しぶりです、霜村様」
「随分と他人行儀な言い方ですね…まぁ、良いでしょう。手続き、お願いします」
「かしこまりました。霜村様、お泊まりはご一泊、お二部屋でお間違い無いでしょうか?」
「えぇ、大丈夫です」
「では、恐れ入りますが、此方へ記入をお願いします」
淡々と業務をこなす私に、霜村も淡々と言葉を返す。
端から見ればきっと、私達が知り合いだなんて分からない。
霜村が静かにレジカードにペンを走らせていると、急にその背後から女の子がヒョッコリと顔を出した。
「えーっ、なんで二部屋?一部屋で良いじゃないっ!お姉サン、一部屋キャンセルしてくれる?」
明るく言い放ったその女の子は、派手目な格好をしているくせに、似合わない帽子とサングラス…明らかな変装スタイルをしている。
何なの?この子…
「あのねぇ、李鈴さん。少しは自分の立場を自覚して下さいよ。貴方はアイドルなんですから……」
ア、アイドル?
ちょ、ちょっと待って…
アイドルって何っ!?
「でもぉ…」
「『でも』じゃないです!ダメです!」
「はぁぁぃ…」
渋々返事をした彼女は、話が読めないでいる私に向かって、『隣同士の部屋にしてネ』と言った。
そして、サングラスをずらしながらペロッと舌を出す。
何てコト!?この子…
アイドルの小牧 李鈴(コマキ リリン)じゃないっ!?
「初見さん、ちょっと良い?」
「なんでしょう?」
同僚に呼ばれて、私は一旦仕事の手を休めた。
「これ、783号室のお客様にデリバリーお願いしたいんだけど、大丈夫?」
……ん?783号室?
「大丈夫ですけど…なんで私?」
「それが、お客様がどうしても初見さんにお願いしたいって…初見さん、783号室の霜村様と知り合いなんだって?忙しいのに、ゴメンね」
やっぱり、アイツか…
「いえ、構いませんよ」
内心凄く嫌だったけど、私は何とか笑顔を作って答えた。