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不確かなモノ
【大人 恋愛小説】

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不確かなモノ-5

「でもさぁ、霜村さんとは久しぶりに再会したんでしょ?だったら…昔はそうだったかもしれないけど、今は違うかもしれないじゃない!」
「あ・り・え・な・いっ!だってあの男には、小牧 李鈴が居るんですよ?」
「小牧 李鈴?……え?霜村さんって、あの子のマネージャーでしょ?別に付き合ってるって訳じゃないと思うなぁ……」
“マネージャー”ねぇ…
「あれが、ただのマネージャーとアイドルの関係に見えますか?」
私の言葉に、加代さんが一瞬考え込む。そして、『見えないわね』と呟いた。

「ほらね、分かったでしょ?アイツは、そういう男なんですよっ!」
「でもぉ…」
「さてとっ!じゃあ、私はそろそろ失礼しますね」
「えっ!?」
「明日、早番なんですよ…」
私は、残りのビールをグビッと飲み干して席を立った。
これ以上霜村絡みの話をしても、更に気分が悪くなるだけだ。


お会計を済ませて外に出ると、アルコールで熱った体に冷たい風が心地好い。
まぁ、この熱は、アルコールだけが理由じゃないんだけど……

ここ数日の内に、めっきり空気が肌寒くなったと思う。
もう冬は近い。街が氷つくのも、時間の問題だ。
そうだ、北風に乗せて忘れてしまおう。
今日の出来事は夢だったと…あの霜村は幻だったと……思う事にしておこう。
そうすればきっと、凍らせられる。
街と一緒に…この胸の奥に渦巻く、嫌な感情を……


「おはようございます、初見さん」
急に声を掛けられて顔を上げた私の前に立っていたのは、またしてもあの男…霜村だった。
「チェックアウト、お願いします」
もぅっ、なんで私なのよ?
せっかく“幻だった”という事で方が付いていたのに、明らかな実体がここに居る。
この男…さては私のカウンターが空くの、見計らってたな?
最っ低!
どこまで私を振り回せば気が済むのよっ!?
「かしこまりました、霜村様」
私は、胸の内を隠してニコッと微笑んだ。

「あ〜ぁ、せっかくのお休みだったのに…もうおしまいなんて、李鈴ショックぅぅ!」
霜村の後ろでは、相変わらずの変装スタイルをした小牧 李鈴がぶぅたれている。
「仕方ないじゃないですか。仕事、お好きなのでしょう?」
「でもぉぉ…倫クンもぉ、ダ・イ・ス・キ!」
はいはい、ごちそうさま。

「ねぇ、倫クン…携帯鳴ってるよぉ?」
小牧 李鈴が、言いながらポケットから黒の携帯電話を取り出す。ストラップも何も付いてない…至ってシンプルなもの。
へぇ…この子が携帯に何も付けないなんて、なんか意外!
「あっ、社長からだっ!ねぇ、アタシが出ても良い?」
……ん?
「えぇ、構いませんよ」
「わぁい!」
小牧 李鈴は両手を上げて大袈裟に喜ぶと、携帯を開いて『はい、霜村でぇっす!』などと話しながらカウンターを離れて行った。
アイドルって、電話に出るのにもマネージャーの許可が……って、
「アンタのかいっ!?」
つい大声を出してしまい、私はハッと口を押さえる。
私としたことが…一生の不覚。
目の前では霜村が、馬鹿にした様にクスクスと笑っている。
この男…どこまで行っても、鼻持ちならない。


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