故蝶の夢〜未来〜-6
「俺と過ごすはずだった未来を、生きろ。」
トン
と肩を押された。
足が宙をきる。体が傾く。
私は落ちた。
多輝が小さくなっていく。
待って、待って、待って。
私は思いっきり手を伸ばす。
届かない
だけど、その時見た多輝は、確かに笑っていたんだ…
*
「つぐみ…」
「え…?」
目が覚めた。目の前には沙希の顔。
何が起きたかわからずに、周囲を見回す。
そこは教室だった。
(そうだ…みんなでここに集まってて…)
私は自分の顔に手を触れると、頬が涙で濡れていた。
「つぐみ、どうして泣いてるの?」
「わかんない…何か、夢を見ていたような気がするのに…」
大事な何かを忘れているような…
「みんながいっぺんに眠っちゃてさ、変だと思わない?有り得ないよ〜!」
「うん…」
眠ってからあまり時間は経ってないようだ。1時間くらいだろうか。
もっと長く眠っていたように思うけど。
他のみんながなぜか、元気になっている。
胸のつかえが取れたような、爽やかな顔…
私もなぜだろう。心があったかくて、悲しくない。
「つぐみ、明日は…学校来る?」
「え…」
心配そうな沙希の顔。
私は力いっぱいの笑顔で答えた。
「もちろん!!」
集団で眠ってしまった事件以来、私たちはいつも以上に精一杯生きているように思う。
多輝の友達だった塚本くんは、最近活発になって、部活も始めたようだ。
私も、一生懸命、生きている。
なぜだろう
多輝が生きられなかった未来を必死に生きて、未来をかき集めて…
そうして、いつか私が死んでしまった時に、天国にいる彼に話して聞かせたい。最近そう思うようになったんだ。
理由はわからない。
「覚えてないけど、あの夢…見た時からかなぁ…」
私は空を見上げる。
部屋の写真立ては、新しくした。
そこには
未来を信じていた私たちの、笑顔が写っている