故蝶の夢〜未来〜-5
パリンッ…
暗闇の世界が、割れた。
気づくと私達は、夜空の下にいた。
宙に浮いた、鏡の上に二人で立っている。すぐにでも割れそうな足元。
周囲にはガラスの破片も浮いており、星の光を反射させて、キラキラと輝いていた。
「ここは…?」
「つぐみ、お前の心のなかだ。ここでお別れだよ。」
私は驚いて周囲を見回す。
ガラス…割れた写真立ての破片…
「お前ももう目覚めなきゃな。このままだと俺と一緒にあの世に行っちゃうから…」
「私、それでも、いい…」
静かな時間が流れる。
星が綺麗だ。
本気でこのまま多輝と一緒に逝けたら幸せだと感じた。
「俺もさ…契約、したんだ。」
「え?」
契約と聞いて思い出すのは塚本君が悪魔としたという契約。でもそれは、さっき破棄された。
「悪魔とは反対にいる人と契約した」
「それって神様…?」
「さぁ、俺にはわからない。ただ…契約の内容はこうだ。『悪魔の力に捕らえられてしまった者をすべて目覚めさせよ。ただし報酬として…』」
多輝はそこで一旦言葉を切ると、綺麗な瞳で私を見た。
「たった一人同行者を選び、最後の時間を共有することを許す」
鼻の奥が熱くなる。
涙を堪え切れない。
「俺は迷わずお前を選んだよ。」
多輝にとってはみんな平等、誰もがみんな…
だけど。
「私、多輝の特別な存在になれてた…?」
多輝は微笑んだ。だけど、その瞳からは涙がとめどなく流れている。
「お前が好きだ、つぐみ。」
私は両手で口元を押さえた。
私を、好きだと言ってくれるの…?
もう、嬉しくて、切なくて、何がなんだかわからないくらい…
「男が泣くなんてかっこ悪いよな。でも、目が覚めたらお前は、俺と会ったことを忘れから…今だけ…」
私は首を振って多輝を抱きしめた。
ぬくもりを感じる、確かに、感じる。
「俺後悔してない。だけどさ、生きたかったよ…。お前との未来を生きたかった。」
涙で霞んで多輝の顔が見えない。
ダメなのに。もっと目に焼きつけなきゃいけないのに。
「だから…」
多輝は、私にキスをした。
温かくて柔らかい。涙で濡れた唇。