故蝶の夢〜未来〜-3
「あぁ、来たんだね。」
彼は何の感情も無く、そう言った。
塚本くん、というのは他クラスの男子だ。
大人しくて、目立たない。真面目な印象しか残っていないような、言ってしまえば陰の薄い存在。
私がそんな彼を知っているのは、多輝がしょっちゅうちょっかいをかけていたからだ。
どんなに、目立たない人でも、多輝には関係ない。
目についたとたんに引きずり出して、思うがままに関わろうとする。
最初の彼はとても嫌そうにしていたと思う。
私もそれを見かねて多輝を止めようとした。
だって周りから見ると、多輝が塚本くんをいじめているようにさえ見えただろうから…
だけど、いつの日からか、二人は仲良しになっていた。
塚本君も多輝を避けようとはしない。
その時、私は初めて、塚本くんはとても笑顔の可愛い人なのだと気づいた。
なぜ。彼が
こんなに謝って、こんな心になってしまっているのか。
疑問はそこだけだった。
「塚本くん、一体どうしちゃったの?」
そう尋ねると彼は何の感情も浮かべずにこう言った。
「斉藤多輝が死んだのは僕のせいだ。」
私はそのままの姿勢で硬直した。
「え……?」
ナニヲイッテイルノ・・・?
私は、それが知らない国の言語のように理解できなかった。
何度もその言葉が反復する。
―斉藤多輝が死んだのは僕のせいだ―
「僕のせいで死んだ人を生き返らせるために、悪魔と契約した。命と引き換えに彼を生き返らせる約束だったのに…こんな偽りの世界に、みんなを閉じ込めるだけで終わってしまったんだよ…」
それだけ言うと彼は嘲るように笑った。
上からナイフが落ちてくる。
彼に刺さる
また上からナイフが落ちてくる。
彼に刺さる。
今まで、赤い服を着ているのだと思ったけれど、コレは全て…
彼の流した血だった…
彼は、多輝が死んでから今までずっと。
こうやって自分自身を傷つけてきたというの…?
「僕はずっと他校生の不良グループに飼われていた」
彼は思い出したように語る。
「カツアゲ、パシリ…殴られながらも自分の身を守るために受け入れてきたよ…。従わなかったら本気で殺されると思った。」
「そんな…」
「でも僕はそれでも良かったんだ。学校に行けば、友達が…多輝がいたから。」
私は呆然と立ち尽くす。
ただ話を聞く以外にできなかった。