故蝶の夢〜未来〜-2
ゴプッ
私たちの周囲一帯が沼のように変化し、足首が、膝が、みるみるうちに埋まっていった。
(え……?なに、これ)
「つぐみ!!」
同じように、沼にズルズルと吸い込まれる彼が、私に手を伸ばした。
すがるように私も手を伸ばす。が、届かない。
足が思うように動かなくて、近づくこともできなかった。
「多輝―!!」
必死に伸ばす腕も沼に埋まっていく。
ここは底なし沼?
首も、顎も。
徐々に埋まっていき、ついに口元を塞がれ、彼の名前を呼ぶことも出来なくなる。
耳も、もう聞こえない。
最後に私が見たのは、初めて見る、彼の悲痛な表情だった。
*
(どうせなら、笑ってる顔が見たかった…)
冷静な自分がおかしくなる。
(多輝は、無事かな。私は死んだかな?)
目を開ける。
まぁ実際に開いているのかはわからないが、開けようとしてみた。
何も見えない。
(真っ暗…でも思ったより苦しくなくて良かったな)
多輝は死んだ時痛かったかな?
―…めんなさい…
声が聞こえた。
―ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…
ただ、謝罪の言葉を繰り返す声。
私は背筋が寒くなった。
何なの?この、声。
―僕のせいで、ごめんなさい…僕のせいで、ごめんなさい…僕のせいで…僕のせいで…
その声の主は、ひたすらに誰かに謝っている。自分を責めるように。
私は自分が動けることに気づいた。腕も足も動く。
ここに、ちゃんと動いている。
どうやら生きていたようだ。
暗闇の中ではあるけれど、きちんと地に足が着いており、歩ける。
周囲を見回すと、暗闇の中にぼうっと人が浮かんでいるのが分かった。
赤い服を着た男だ。
胎児のように丸まって、目を瞑り、ふわふわと浮かんでいる。
私は、その人を知っていた。
「塚本くん、なの…?」
彼はゆっくりと目を開くと、虚ろな瞳を私に向ける。