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故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜
【悲恋 恋愛小説】

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故蝶の夢〜未来〜-2

ゴプッ

私たちの周囲一帯が沼のように変化し、足首が、膝が、みるみるうちに埋まっていった。
(え……?なに、これ)
「つぐみ!!」
同じように、沼にズルズルと吸い込まれる彼が、私に手を伸ばした。
すがるように私も手を伸ばす。が、届かない。
足が思うように動かなくて、近づくこともできなかった。
「多輝―!!」
必死に伸ばす腕も沼に埋まっていく。
ここは底なし沼?
首も、顎も。
徐々に埋まっていき、ついに口元を塞がれ、彼の名前を呼ぶことも出来なくなる。

耳も、もう聞こえない。

最後に私が見たのは、初めて見る、彼の悲痛な表情だった。





(どうせなら、笑ってる顔が見たかった…)
冷静な自分がおかしくなる。
(多輝は、無事かな。私は死んだかな?)

目を開ける。
まぁ実際に開いているのかはわからないが、開けようとしてみた。

何も見えない。

(真っ暗…でも思ったより苦しくなくて良かったな)
多輝は死んだ時痛かったかな?

―…めんなさい…

声が聞こえた。

―ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…

ただ、謝罪の言葉を繰り返す声。
私は背筋が寒くなった。
何なの?この、声。

―僕のせいで、ごめんなさい…僕のせいで、ごめんなさい…僕のせいで…僕のせいで…

その声の主は、ひたすらに誰かに謝っている。自分を責めるように。

私は自分が動けることに気づいた。腕も足も動く。
ここに、ちゃんと動いている。
どうやら生きていたようだ。

暗闇の中ではあるけれど、きちんと地に足が着いており、歩ける。
周囲を見回すと、暗闇の中にぼうっと人が浮かんでいるのが分かった。

赤い服を着た男だ。
胎児のように丸まって、目を瞑り、ふわふわと浮かんでいる。
私は、その人を知っていた。

「塚本くん、なの…?」

彼はゆっくりと目を開くと、虚ろな瞳を私に向ける。


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