故蝶の夢〜震える腕〜-1
もういくつの扉を開けてきただろう。
多輝はたくさんのお別れを回収して、旅支度をしているようだった。
そして、軽口も叩かなくなった。
全く私の目を、見ない。
「多輝…」
私はこのままの状態が辛くて、名前を呼ぶ。
「扉は最後の一つだな。」
「!!?」
私は心臓が止まりそうになった。
すごい勢いで辺りを見回すと、目の前にあるたった一つの扉以外に、もうなくなっている。
気づかなかった…こんなに早く…?
私は扉のことよりも、多輝のことで頭がいっぱいだったからだろう。
「行くぞ。」
「…多輝…待って」
握りしめた拳が汗ばんでる。
しかし、多輝は私の必死の言葉に全く聞く耳持たず開けようとした。
その様子に怒りが爆発する。
「待ってって言ってるじゃない!!!」
ドアノブに手をかけたまま、多輝の動きがピタリと止まる。
そんな後ろ姿に私は罵声を浴びせてしまった。
「なんでそんなに急ぐのよ!!そんなに早く消えたいの!?死にたいの!!?人の気も知らないで、いつも勝手行動して…そんなに行きたいなら早く行けばいいじゃない!!!私はもう、あんたと一緒になんて、いたくない!!」
違う。
こんなこと言いたくない。
違うの。
自分に嫌気がさして涙が出てくる。
重い沈黙が流れる。
「…じゃあ、つぐみは来なくていい。」
そう突き放すと、一人で扉の中へと入って行ってしまった。
パタン、と閉じた扉を私は呆然と見つめる。
(来なくて…いい、か…)
光る道の上にぽたぽたと涙が零れ落ちる。
(最後の最後にこれ…?どうして素直に言えないかなぁ…)
私は自虐的な笑みを浮かべる。どうしようもなくて笑うしかない。
このまま多輝と永遠に別れて、目が覚めて、何も覚えていない。
そんな最後って、ある?
私たちの今までってその程度?
私は何も答えが出ないまま、涙も拭えず膝を抱いてしゃがみこむ。
「こんなに苦しくて、どうしろっていうのよ…」
その時、扉が開いた。
多輝が戻ってきたのかと思い、すぐさま顔を上げる。
しかし、そこには誰もない。
ただ、私の部屋が見えた。