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故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜
【悲恋 恋愛小説】

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故蝶の夢〜震える腕〜-2

「この扉…誰の心なの…?私の部屋が、どうして?」

分からない。
ただ、招かれているような気がして立ち上がった。
そして、導かれるまま扉の中に入る。

中に入った瞬間、ふわっと後ろの方で、扉が消えた。

「多輝、…いるの?」
返事は無い。

ただ。いつもの私の部屋だ。
放り投げて割れた写真立てもきちんと直っていて、いつもの位置に置いてある。
私はその写真に写る、多輝の輪郭をなぞった。
その時、急に部屋のドアが開いた。

「つぐみーーー!!遊びにきたぞ!!」
私はいつもの癖で、反射的に写真を伏せた。
「いきなり入らないでって言ってるでしょ!?着替えてたらどうするのよ!!」
お決まりの台詞を言ってしまう。そしてすぐにはっとした。

開いたドアにはいつもの元気な多輝が立っている。
さっき、あんな態度だったのに…?

「細かいこと気にすんなよなー!ほら行くぞ!!」
私は多輝に手を引かれるままに、家を飛び出した。

どうして…?私を突き放したのに、この態度?
モヤモヤとした心持ちで、しかし、されるがままになっている。

着いた先は、市内の映画館。

「これこれ、ずっと観たかったんだよなー。『犬と僕。』!!俺、おごるから観ようぜ!!」
「え…これ、この前、もう観たよね?」
多輝は私の言葉には答えない。
「まぁ。この犬をもってしてもロジーの可愛さには負けるけどな!」
私に向かって歯を出して笑った。

(懐かしい…最近のことなのに、すごく遠い昔のような…)
思わず顔が綻ぶ。
暗い映画館で見た多輝の横顔、真剣な顔で映画を観る多輝がすごくおかしくて、内容はあまり記憶に残ってなかったっけ。

そして、映画館から急に、場面が飛んだ。

一緒に買い物に行った思い出。
あいつは本当に落ち着きがなくて、すぐにはぐれて、結局私はあいつを探すだけでクタクタになってた。
だけど、あいつは別に迷子になったつもりなんて無くて、
「おいおい、お前どこ行ってたんだよー。お前がいると思って俺、1人で喋っちゃったし…」
とかいいながらふてくされて突然、現れる。

斉藤家で、ご飯をごちそうになることも結構あった。
多輝はトマトが嫌いで、私はピーマンが嫌い。
子供みたいな私達は、野菜を交換し合って、おばさんに叱られた。

そんな数々の場面を見て、私はふふっと笑う。

思い出達が走馬灯のように移り変わっていく。

いつも多輝の笑顔に励まされて、支えられて。
それなのに私は、多輝に何であんなこと言っちゃったんだろう…
今更ながらに、自分の暴言を思い返す。

また場面が変わった。

ビルの路地裏。
隅のほうにはゴミが落ちていて、人は誰もいない。
私はきょろきょろと周囲を見回す。
(こんな所に来たことあったっけ…?)

私は冷静に、ここは私の心の扉の中なのかもしれない、と思い始めていた。
だって、ここは私と多輝の思い出ばかり。
過ぎた日の楽しい思い出ばかりだ。


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