「別れ話をしよう」-1
[act.1]
都会の真ん中、階段を下りた先にそのバーはひっそりと佇んでいる。
半地下に位置する扉を開けるといつものカウンターに君が座っていた。
淡いキャンドルに照らされた君の横顔が、どこか淋しく見えるのは、これからするのが別れ話だからだ
ろうか。
バーボンをロックで頼むと、君にかける言葉を探す。
「好きな人が出来たんだ」
違う。
「君のことが嫌いになったからじゃないんだ」
いや、言い訳をしたいわけじゃない。
ただ、この手で幸せにしてやりたい女性(ひと)を見つけただけなんだ。
誰よりも大切に守ってあげたい女性(ひと)なんだ。
君の視線が胸に痛い。
この瞳に惹かれた筈なのに、今はその目を見るのが怖い。
涙なんか見せないで欲しい。
その瞳が曇るところは見たくは、ない。
そんな涙に濡れた瞳で「最初から遊びだったもんね」なんて言わないで欲しい。
本気だったんだ。
「遊び人」と言われた僕だけど、君だけは遊びなんかじゃなかった。
勝手なことを言っているのは分かっているけど。
君にかける言葉を探し、僕の視線は宙を彷徨う。
遠く、遠く、遠く…。