甘辛ウィルス-7
○
───現在時刻、月が見える空。
冷風が顔に当たる度に激痛が現れる。
あの女、今に見てろよ…!
将太に用事ができたと知った時、俺は約束を打ち切りすぐに行動を開始した。
まずは将太に会いたかったが、ドアをノックしても反応が無かったので、将太の家付近をぶらぶらとうろついていた。
暇を潰してる際に聖奈さんを見かけ、一時的に荷物持ちとして一緒に帰宅することに。
着いた瞬間あの馬鹿女に歯を折られそうになったが、なんとか持ちこたえて再び外出。
───今に至る。
十五夜は過ぎたけど、今夜は本当に月がよく見える空だ。
しかし寒い風が通り抜ける季節故、特に夜は冷える。
「…ふむ、晩飯を食ってからの方が良かったか」
由紀奈が作ってくれたマフラーもそれなりに温かいんだが…
更に聖奈さんの料理が加われば、寒さなんて一瞬で吹き飛んでたな。
雪の季節を思い出す。
俺と由紀奈と父さんと…ゴツァンの格好をした母さんが笑っている冬景色。
最初で最後のメリークリスマスだった冬景色。
「今年も上手くやれるよな、父さん、母さん」
この祈りが天の神まで届きますように。
「………ふう」
十分も経たずに到着。
寒いし、ぱっぱと終わらせてさっさと帰りたいんだがな。
中から怒号が聞こえれば、それはもう相当な厄介事だと認識してしまうものだ。 …人間ってヤツは。
◇
両親がいなくなり、早急に僕を引き取ってくれたのが今の養父だ。
まだその時は養父の家族もいた。 奥さんに娘さん…つまり養母と養妹、僕の新しい家族だった。
違うか、「僕の新しい家族になるはずだった」…この方が合ってるかもしれない。
戸籍上ではたしかに家族だけど…
養父と養母は非常に仲が悪かった、理由はわからない。 端的に言えば相性が悪かったのだろう。
だから正式な離婚もせずに、二人は別居生活を始めた。
養父と僕、養母と養妹で。
そこからだ、引き取ってくれた時の養父とは全然違う養父になったのは。