甘辛ウィルス-5
「……最近、というか、今日になって身体が疲れてきてるみたいなんですよ。 こうして公園にいるのも気分転換として…」
「…………」
少なくとも嘘ではない。
一種の悩み事…今はそれでいい。
「…なら、今日はわたし達と晩食を共にしませんか? 野菜ばかりですが精は付くはずです」
やはり聖奈さんは大人だった。 僕を守ろうとしている。
概ねの事情を察したみたいだ。
「もう時間も遅いですし。 それに手間暇かけさせちゃうと、こちらが迷惑をかけることになりますから…………」
「ん……………わかりました、将太さんがそう仰るのならば…」
これで良かったと思う。
「…じゃあ…将太さん、ちょっとだけ」
「……ん?」
聖奈さんの手のひらが、僕の頬をそっと包む。
温かいな…なんて呑気に思っている時には既に、行動は始まっていた。
そして僕が驚く前に、行動は終わっていた。
「Daiser。 元気が出るおまじないです。 あまり遅く滞在してると夕も更けちゃいますよ。
…ガンバって下さいね」
「……………え」
時間差で今更驚く。
もう聖奈さんはいなかった。
●
らしくなかった気がする。
わたしも将太さんもおかしかった。
寒いはずなのに熱い。 それも身体の内側から業火で煮やされてる様な感じの熱さ。
なんでもいい、思いっきり叫びたい。 違うことに意識を働かせたい。
「……〜〜〜〜〜」
…唸った、とりあえず唸った。
この動悸は疲労・恐怖・緊張・興奮のどれからくるものだろうか。
「んお? 我が家の家政婦さんじゃん」
前に…前から声が聴こえた。
「透くん…今日はどこに行ってたんですか?」
「ああ、ちょっとね…。 ……聖奈さん…?」
「はい?」
「えっと、買い物に…出掛けてたんだよな…?」
「…はい。 晩ご飯の材料を買いに」
「……その涙の理由を教えてくれたら豪華特典として、俺のハンカチを貸してあげようかなと思ってるんだけど」
指で眦に触れてみる。
もしもこの潤いが汗だったら都合が良かったのに、なかなか思い通りにならないってところが、非常に現実味を帯びていますね。