甘辛ウィルス-4
「……?」
約五分後、聖奈さんが戻ってきた。
両手に何かを持っている。
僕の隣に座り直すと、「どうぞ」と肉まんを差し出してきた。
「あの…?」
「…お話してるときに、ずーっと将太さんのお腹が鳴っていましたから」
そうか。
無意識の内だったらしい。 そういやお腹すいてたな。
「でも……」
「人の好意は素直に受け取るものですよ。 相手が女性の場合は、特に」
「………」
僕は何気なく出てくる正論に弱いようだ。 あと本能には逆らえない。
「寒くなってきましたよね…」
「そうですね。 この時期は木枯らしが極端に多いし」
思い直すとさっきまでは相当寒かった気がする。
けど寒く感じなくなったのは確実に聖奈さんのおかげだ。
肉まんを口に含む前に鋭い視線を感じた。 主に横から。
「…………」
横だと曖昧な方か。 正確に言うと真横、聖奈さんの位置から感じる。
っていうか聖奈さんしかいない。
これは「おいしそうに食べるなぁ」とかそういう類の視線じゃない…となると。
「将太さん」
強い語調に変わっている。 真面目な話を始めようとしているのか。
そう感じ取り、僕もやや語気を上げて返事をする。
「はい」
「わたくし、将太さんのことが好きです、凄く気になります」
一秒で察知した。
これは凪か透のどっちかが考えたドッキリなんだと。 僕の反応を見て楽しむドッキリなんだと。
どうせそこらに隠れてるんだ。 それで『ドッキリ大成功!』と書かれているプラカードを持って…
「将太さんは、わたしのこと好きですか?」
「…えっ…と…」
聖奈さんって案外演技が上手いんだなぁとか思いつつ、ちゃんと返答することにした。
「好きですけど…好きですよ。 だけど聖奈さんには夫さんがいて、だから…!」
「つまり、好きなんですね?」
「あ…その」
…駄目だ、どうしても曖昧になってしまう。
「…力になりたいんです」
「…………ちから?」
「私のことが嫌いじゃなければ、迷惑じゃなければ悩み事を教えてほしいんです。 もちろん無理にとは言いません。 でも、でも将太さんが好きだから、気になるから…力になりたくて」
透が言っていた。
感性はアレだけど、勘の良さと人間性は最高の女性だと。 誰にどう言われても俺は百点を付けると。
宮藤・セイナ・アレッシア
こういう女性が母親だったら、最高の生活を送れていたはず…本当にそう思った。
正直、僕は迷っていた。
言うべきか言わないべきか、どちらを選んでも心配させるだけなんじゃないのかって、気づいたから。
けれどもすぐに決断できた。
『本当のこと』を言おう。