勇者御一考様-1
ハーツ:どうしよっかなぁ…。
一人の勇者は呟いた。
彼は村の偉大なる魔術師によって選ばれた、世界を救う勇者だった。
たった今さっき村を出発したばかりなのだが、彼は歩いて20メートル程で道端にある石に腰掛けた。
ハーツ:はぁ…。
村はもう見えないが、その喧騒は聞こえる程に近い距離で、彼はため息をついている。
ハーツ:あーあ…。村出ちゃったしなぁ。しょうがない、行くかぁ。
彼は重い足取りで隣り村にやって来た。隣りと言っても歩いて片道半日の距離だ。
もう日が暮れかかってきたので、ハーツは宿に泊まった。そこそこ綺麗な宿だが、そこの主人がしかめっ面をする。
ハーツ:満室〜?
主人:ああ、でも相部屋なら空いてるよ。
ハーツ:え〜?ただでさえ俺、枕変わると寝られないのに他人と一緒なワケ〜?
幾つか不満を漏らしたハーツだが、この村の宿屋はここしか無い。渋々相部屋を承諾するしか無かった。
主人に連れられ入った部屋には、ローブ姿の人物が一人いた。部屋の中心にある古ぼけたテーブルで紅茶を飲んでいる様だ。
主人:お嬢さん、この兄さんと相部屋だよ。
主人の声を聞いたローブの人物はフードを取った。茶色い長い髪をした少女だ。
ただ、顔は可愛らしい方だが、表情はあり得ない、といった感じだ。つかつかと主人に歩み寄って来る。
少女:男の人と一緒なの!?聞いてないわ!
主人:だから最初に言っただろ?
少女:私に何かあったらどうするのよ!?
主人:それでも相部屋にしたのはお嬢さんじゃないか。
少女:そ、そうだけど…。もう、分かったわよ。今更追い出せないし。
少女は頷き、主人は部屋を去ろうとする。
主人:まあ、その兄さんなかなか格好いいし、良いじゃないか。
そう最後に言って主人は部屋の戸を閉めた。
少女:何言ってんのよ。
ため息交りにそう言うと、少女はハーツに向き直る。
少女:ねえあなた、私に何かしないでよね。もしも触ったりしたら…って聞いてる!?
ハーツ:は?
主人と少女が会話していた間、ハーツはいそいそと荷物をベッドに運び、勝手にパジャマに着替え、今から歯を磨く支度をしていた。既に目が半開きになっている。
ハーツ:あのう、眠いんですけど…。
少女:そうじゃないでしょ!?いい?私に何かしたらただじゃおかないから!分かった!?