光の風 〈貴未篇〉後編-4
貴未は一人、シードゥルサに飛ばされてしまった。
未だ永は行方不明のまま。
『私の命を救ってくれた貴未と永、私にとってかけがえのない存在なの。彼らを巻き込みたくないわ!』
マチェリラの口調はいつになく強い、眼差しもまっすぐカルサに向けられていた。強い思いが伝わってくる。
『カルサトルナス。お願い、貴未を解放して!』
カルサは何も答えなかった。ただ黙ってマチェリラに向き合っているだけ、逃げずにぶつけられる感情を受けていた。
『カルサトルナス!』
叫びに近い声が部屋中に響き渡る。カルサは目を伏せると、ゆっくりと口を開いた。
「カリオは歯車の世界か。」
急に不思議なことを言ったカルサにマチェリラは思わず聞き返した。
「カリオはおそらく時を支配する世界。運命を操る世界だ。」
『何が言いたいの?』
「あいつらが巻き込まれたのも運命かもしれない。」
カルサの言葉が終わった瞬間、マチェリラはカルサの肩を掴んでいた。
『何を言うの?そんな運命ある訳ないじゃない!軽々しく言わないで!』
マチェリラの叫びにカルサは目を伏せ、ゆっくりと深呼吸をした。
「どちらにせよ…もう一人が囚われている場所は予想がつく。お前もだろ?」
苦々しくマチェリラは同意する。
おそらくは根源の人物、そう思い浮かべてマチェリラは頭を抱えた。
『なんでこんな事に。』
その思いは誰もが感じることだった。
「お前にとって貴未が大切なように、オレにとっても…あいつはかけがえのない仲間だ。」
カルサの思いがけない言葉にマチェリラは動きを止めた。
「オレだって巻き込みたくない。」
その姿に威圧感などない、普通の青年が少し弱音を吐いてるようにも見える。
「オレが死ねば話が早いんだが…それを怒って止める奴がいる。」
カルサの脳裏に千羅と瑛琳の姿が浮かんだ。いつも全力でぶつかり、共に歩む道を探してくれる大切な仲間。
「今は、生きる事がオレの戦いだ。ごめんな、マチェリラ。」
マチェリラは耐えきれず空を仰いだ。目頭が熱い、我慢しても涙が頬を伝った。
「守るよ。オレはオレの大切なものを守り切ってみせる。」
カルサは自分の手の中を開いて見つめた。この手から溢れる事無く全て守れますように。そう願い、固く握り締めた。