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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈貴未篇〉後編-2

ちいさな手が癒してくれた傷が熱い。ぬくもりが更に涙を誘った。

『それから人の姿で過ごしてきたわ。時間が経つにつれ、私の体は地球の人間より老いるのがかなり遅いことに気付いたの。』

既に力のせいか、存在感からか、宗教の象徴として扱われるようになっていたマチェリラは、体を隠し意識体だけで姿を変え、名前を変えて何回も人生を繰り返していた。

『人に合わせ体を老化し、やがて姿を消す。いつまで経っても終わらない人生に疲れてた。』

そうまでして生きていく価値はあるのだろうか。

それでも皆、マチェリラを求めてきた。

癒しの象徴として、希望の象徴として、救いの象徴として、皆がマチェリラの存在を求めてきた。

マチェリラは戦争にもなりかねない自分の存在に耐え切れずその地を離れた。とおく離れた場所で、ただ一人になりたい。

もう生きることに疲れたマチェリラは死をも選ぼうとしていた。

あの残虐な事件の後、幼い子供が救ってくれた命。マチェリラには自分で捨てる勇気がなかった。無残に奪われていく命、それを目の当たりにしたマチェリラにとって、あの子達の手のぬくもりは忘れられなかった。

それでも、辛い。

 生きる速度の違う世界でマチェリラは人の何倍も生きなければならなかった。切なさがこみあげて、涙が止まらない。

誰もいない丘の上から町を見下ろしてマチェリラは泣いた。まるで助けを求めるように声を上げて泣いた。

どれくらい泣いたか、しばらくして後ろから声をかけられた。

「大丈夫?」

男の人の声、どこか若さが残る色にマチェリラは振り返る。

青年と呼ぶにはまだ若い、しかしどこかで見たことがあるような顔がそこにはあった。マチェリラは思わず見惚れてしまう。

青年は優しく微笑み、ポケットからハンカチを取り、差し出した。

「涙。」

マチェリラは忘れていた涙に気付き、思わず顔に手を当てた。伺うように青年を見ても彼は変わらず優しい笑顔だった。

「ありがとう。」

ハンカチをそっと受け取り、涙を拭いた。何故か不思議な気持ちになっている。

やがて遠くから女の人の高い声が届いてきた。

「貴未ーっ!?」

マチェリラはその声に動きを止めた。それはいつか聞いた名前、その瞬間目の前にいた青年が勢い良く手を挙げた。

「永(はるか)!」

マチェリラは俯いていた顔を上げた。貴未と永、それは忘れもしない名前。遠くから駈けてくる姿をじっと見ていた。

少しずつ鮮明になる表情、目的の貴未の姿をしっかり捕らえて彼女は笑顔で走ってきた。


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