光の風 〈貴未篇〉後編-10
ーまた帰れなかったのか?
ーまあね。でも次こそは糸口を見つけてくるよ。
ーそうだな。お前を待っている人がきっと心配している。
ーあぁ。
ー貴未、オレはちょっとお前が羨ましいよ。
それは貴未とカルサの会話。随分と昔に交わした珍しい会話だった。
そういえばあの時のあの言葉、思い返すと何気ない会話の中にも随分意味深な言葉があった。ささいな一言にも含まれるものが多い時もあった。
「よう。」
広い国を見下ろせる、最高のポイントにカルサはいた。城の屋根の上、かつてフェスラと戦った場所でもあるここにカルサを捜しにきたのは貴未だった。
いつもとは違い、屋根の上に軽く膝を抱えるように座っていた。
「貴未。」
「こんなとこで何やってんの?」
一国の王が屋根の上でおサボリですかと、悪態を吐きながら貴未は少しずつ距離を縮めていく。
「まぁ、そんな所だ。」
苦笑いをしてみせた。やはりマチェリラの言うように、カルサは貴未に対してとまどいを隠せなかった。
「お前の事、だいたい聞いた。」
貴未の言葉に少し時間をおいて、そうか、と答えた。カルサは自分から話そうとはしない。
「オレに自分の事を知られてどんな気持ちだ?」
それは上からでも遠慮からでもない、カルサの本心が聞きたい素直な疑問だった。
「…恐い。」
少し怯えるような表情で、カルサは貴未に今の心境を伝えた。もちろんそれは、貴未にとって予想外の答えだった。
何も言わずに黙ってただカルサを見ていた。
「策士が手の内を証されているようだ。自分を繕うものがない。」
次いで聞かされる本心。何の用意もなかった貴未は、驚きながらも彼の気持ちを知ることで精一杯だった。
自分の腕をしっかりと掴み、自分という舵を感情という波にとられない様にあがいているようだ。
「貴未、お前ならどうした?」
「え?」
突然の質問に、思わず聞き返してしまった。