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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの絆<前編>-3

「わ、たし…何か悪いこと…言っちゃった?」
水沢は辞書を握り締めて、ぽかぁんとしている。
「言ったね」
「な、何て言っちゃった?」
「アイツ、“光輝君”って呼ばれるの毛嫌いしてるから…特に女の子からそう呼ばれると、過剰反応するんだよ。なんでかなぁ?」
「そ、それだけ?」
「そうそう、それだけ!てか、なんで急にそう呼ぼうと思ったの?いつも通り、“瀬沼”って呼んどけば良かったのに……」
「なんとなく…」
水沢はあからさまに沈んでいる。光輝の不機嫌さが、相当堪えたらしい。

(まぁ、仕方ないな…)
出会ってから一度も、光輝が誰かに“光輝君”と呼ばせているのを聞いた事がない。
光輝がそこまで毛嫌いする理由を、俺ですら知らない。
(まったく…何がそんなに気に入らないんだか……)
長年友達をやってても、光輝に関してはよく分からないことが多い様な気がする。


分からないと言えば、もう一人…宮木さんのことに関しても、よく分からない。

「聖ちゃん、オレ…聖ちゃんの事が好きなんだ。付き合って欲しい」
(あ、まただよ…)
「え、えぇっと…ご、ごめんなさいっ!」
言いながら宮木さんは、勢い良く頭を下げた。
(やっぱりな…)

念の為に言っておくけど、俺は他人様の告白を好き好んで覗いている訳ではない。
公衆の面前で、堂々と告るヤツが悪い。
まぁ、皆はもう馴れてるから、殆んどの人間が『またか』って顔をして見てるけど……

宮木さんは半端じゃなくモテる。告白されるのなんて、宮木さんにとっては日常茶飯事だ。
でも何故か、宮木さんは誰とも付き合おうとしない。どんなヤツに告白されたとしても、必ず即答で断る。
そう、即答で。

『もし俺が告白したら?』なんて事は、まだ考えないでおこう。
今はまだ、友達のままで良い。
宮木さんの一番近くに居る男が俺であることは、他人の目から見ても一目瞭然だからね。
今はそれだけで満足だよ。


また巡って来た桜の季節…始業式の朝校門をくぐると、桜の花を見つめる見慣れた姿があった。

(何やってんだろ?アイツ……)
愛しそうに目を細めて、一年前と同じ様に光輝がそこに立っている。
その瞳はどこか遠くを見ている様で、俺は声を掛けることすら出来なかった。


(何だろう?なんか、スッキリしないんだよなぁ……)
始業式の朝から数日…モヤモヤとした気分が、あの日からずっと続いている。
理由は分からないけど、何故だか嫌な予感がする。


今日もスッキリしない気分を抱えながら登校した俺は、校門を入って直ぐに既視感に襲われる。
そこでは宮木さんが、桜を見つめて佇んでいた。
その姿は、一年前とまるで同じ…でも、俺の中で重なった姿は一年前の彼女の姿ではなくて、つい先日見たばかりの光輝の姿だった。

(な、んで…)
面識すら無い筈の二人の姿がどうして重なるのか…俺にはよく分からない。
よく分からないけど…嫌な予感ばかりがどんどん膨らんで行く。


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