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中嶋幸司奮闘記
【コメディ 恋愛小説】

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中嶋幸司奮闘記-1

突き抜ける青空。
横たわる俺の身体を容赦なく照りつける日差し。
昼休み、飯を食べて満腹になった俺は校舎の屋上に上がりベンチに寝転がるとぼーっと梅雨明けの空を眺めていた。
「……腹は満腹。けだるい午後……昼寝をするにはちと暑い……かな?」
俺はぼそりと呟くと重くなってきた瞼への抵抗を早々に諦め目を閉じた。

目を閉じた事で現実の感覚から駆け足の速さで離脱する俺だったが、耳から入る学校特有の喧噪が俺を夢の世界に旅立たせるのを拒んでいるかのようだった。
「いやぁ、平和だねぇ……天下太平ってのはこの事かねぇ」
かろうじて繋がっている意識でまったりとした時間を感じていると、遠くでドアの開く金属音が聞こえてきて、それと同時に足音も聞こえてきた。
そして、その足音から察するに足音の主の機嫌はあまり宜しくないようなのである。

「中嶋! 君って人間は学習能力がないのかね? 昼食を食べたら私のところへ来るように伝えたはずだが私の勘違いか?」
声からして不機嫌な様子がありありと分かるその相手に、俺はゆっくり身体を起こしベンチに座り直すと相手の顔を見た。
「柊ぃ、その件なら俺は圭介にしてくれって言わなかったか? いんや、寧ろ声を大にして言ったはずなんだがな……」
「その相沢は香織との用事で忙しいらしくてな。今回の話をしたら、香織共々謝られて私の方が心苦しい思いをした。だから中嶋も諦めて覚悟を決めろ」
柊は理知的で整った無表情な顔にほんの少しだけ困惑した様子を見せた。
「……で、今回の事で俺にメリットは?」
嫌味のような満面の笑みで問い掛ける俺に柊はあくまでクールに一言だけ返してきた。
「…………ないな」
俺の顔を真っ直ぐに見つめながら風で捲れそうになるスカートを気にしつつ、一度だけ頷く柊だった。
おしいっ!!
見えそうで見えない辺りが悔しいぞ……。

そんな事があった翌日。
「中嶋、あんたねぇ何でも面倒な事を圭介に押し付けようとしないでよね!」
朝一で俺の目の前で怒鳴っている朱鷺塚に辟易しつつあった。
「あー、はいはい悪かった、悪かったよ。郵便ポストが赤いのも猫がニャーと鳴くのも全部俺が悪いんですからよぉ」
「何、そのやたら卑屈な態度。それになんか小馬鹿にした訳の分かんない物言いがムカつくわね」
俺のやる気のない態度を見て更に怒りの形相になる朱鷺塚を抑えたのは相沢兄妹だった。
「香織ちゃん、おはよー。って、どうしたの? そんなに怒って」
「まあ、いつもの如く幸司が香織の逆鱗に触れたんだろ。もう3年になったんだから成長しろよ幸司……」
そう言いながらため息を吐き朱鷺塚を宥めるマイフレンド圭介。
やっぱ、こーゆー時は流石彼氏だぜ。
朱鷺塚の彼氏であり、俺の親友でもある圭介のお陰で最近、朱鷺塚からの被弾率は激減していた。
「でも圭介! この馬鹿はちゃんとシメておかないとすぐ調子に乗るわよ」
「シメたところで幸司の性格や態度は変わらないよ」
「……!? それもそっかー。そうよね、所詮中嶋だしね」
「お兄ちゃんも香織ちゃんもそれは言い過ぎだよ」
俺の目の前で笑っている圭介と朱鷺塚を嗜めるように圭介の妹である智香ちゃんが俺を擁護してくれてはいるが、如何せん元来おとなしい性格の彼女にはこいつ等を止めるのは至難の業だった。
さて、そろそろこの場から一時的に逃亡をしようかと思った瞬間、更なる人物が現れた。我が校のリアルアイドルの藤崎美弥ちゃんだ。
そして、その横には柊加奈子がいた。
経緯は不明だが去年の学園祭以降、この二人は独特の仲の良さを見せている。


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