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中嶋幸司奮闘記
【コメディ 恋愛小説】

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中嶋幸司奮闘記-3

本来なら女の子の手作り弁当は貰って嬉しいし、そんな素敵イベントは大歓迎である。

が、しかし!!

それは可愛い女の子が美味しい弁当を作ってくれるというのが大前提だ!!
確かに愛那は可愛い。
くりっとした目に、動くたびにピョコピョコ揺れる小さいツインテールらしきヘアスタイルも可愛らしさとしてポイントも高いだろう。
まあ、ウチの部員達にもその愛らしい容姿はウケが良くマスコット的な存在になっているくらいだ。
しかし! あの壊滅的に、正直お世辞でもウマイと言えない弁当だけはなんとかして欲しい!
以前、愛那の弁当を知らずに食べて死にかけた俺は翌日、愛那の弁当を食べるのを断った。
まあ、生命の危機を考えたら当然の判断だ。
しかし、その判断がより己の首を締めたのだった。
愛那の弁当の受け取りを断った瞬間、愛那は大泣きしやがったのだ。
その姿はまるで小さな子供の様で周囲の庇護欲を一気に煽り、俺はその場にいた朱鷺塚を筆頭としたクラスメイト達から吊し上げをくらった事がある。
以来、昼休みの度にやってくるこの死亡フラグ直前のイベントを胃薬持参でなんとか凌いでいるのだ。
「さ、中嶋せんぱい遠慮しないで食べて下さい」
「無理して食べなくていいですよ。この前みたいに倒れちゃいますよ」
笑顔の愛那の隣で秋兎が心配そうな顔で俺を見る。
まあ、秋兎がそんな顔をするのもしょうがない。
今の俺は諦めきった顔をしているはずなのだから。
そして、覚悟を決めて愛那の弁当を受け取り蓋を開けた。

相変わらず見た目は普通に出来ている。
ここで見た目がアレなら周りのやつ等もこの弁当の危険性を認識するだろうが、見た目が普通なだけにこれを食べた事のないやつにはどんなに危険なものなのか分からないのだ。
故に愛那の弁当が危険なのをこの場で知っているのは俺と秋兎だけである。

俺は箸を取り、見た目も黄色が鮮やかで上手く焼けている卵焼きに箸を伸ばして口の中に放り込んだ。
その瞬間、えも言えぬ表現不能な味覚が俺の口腔内を蹂躙し始めた。
顔から嫌な汗が吹き出るのを実感しながら、箸を放り投げ手をバタつかせる俺を見て秋兎がペットボトルのミネラルウォーターを渡してくれた。
迷うことなくそれを一気に飲み干すと俺はようやく落ち着いた。
そして、そんな俺を見ながら秋兎が恥ずかしそうに顔を赤くしていたが深く考えない様にしよう……。
しかし、今日の愛那の弁当の破壊力は半端ないものだった。

連日による激しいリアクションの俺に漸く異変を感じた圭介は俺の顔をまじまじと観察している。
「なあ、幸司。その弁当のおかずちょっと貰っていいか?」
圭介の言葉に反応した朱鷺塚も俺ではなく弁当を作った愛那に承諾を貰い、二人は俺の手元にある弁当のおかずに箸を伸ばした。

…………

愛那の弁当を食べた二人の反応は既に体験済みの俺から見ても気の毒なくらい凄まじいものだった。
「……ちょっ、中嶋!? あんたこれを毎日食べてたの!?」
「食べないとお前等が愛那がかわいそうとか言って怒ってたじゃないかっ!」
「あ……あはは……」
俺の言葉に反論出来ず苦笑する朱鷺塚を睨む俺。
「ところで愛那ちゃんは自分の料理をちゃんと味見しながら作ってる?」
手にお茶のペットボトルを持った圭介が俺と朱鷺塚のやり取りを余所に愛那に話し掛けていた。
「いいえ、味見はしてませんよ。なんでそんな事を聞くんですか?」
愛那の言葉に深いため息を吐いた圭介はおもむろに弁当箱に入っている唐揚げを箸で摘むと問答無用とばかりに愛那の口にそれを放り込んだ。
「…………っっ!?」
初めて自分が作った料理を食べたのだろう。見る見るうちに愛那の顔が苦悶に歪んでいった。
「智香ーっ! ちょっと来てくれ!!」
圭介が大声で智香ちゃんを呼ぶと、何事とばかりに小走りでこっちに来た智香ちゃんに圭介は事の次第を説明したのだった。


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