中嶋幸司奮闘記-11
「やっと、お前さんの本当の笑顔が見れたな。この学園に入学して以来、俺の前では愛想笑いしかしなかった柊だったけどこれはレアなものを見れた」
「なっ……!? 貴様っ!!」
俺の言葉に反応したのか、柊の顔が怒りとも照れともとれるくらい真っ赤になった。
そんな柊は圧し掛かる様に俺に掴みかかり顔を近づけた時、病室のドアが勢いよく開いた。
「なっかじま先輩! お見舞いにきましたよぉ」
声の主は愛那だった。
しかし、当の愛那は病室に入った途端に固まってしまった。
よくよく考えてみれば愛那の動きも止まるだろう。
俺と柊の体勢は「これからキスしますよ」と言ってるようなものだ。
「あ……あーっ!! 柊先輩ずるいですっ!! 中嶋先輩とキスして良いのは愛那だけなんですぅ」
「なっ、ち、違うぞっ。誰がこんな男とキスなんかするかっ」
そのままベッドまで駆け寄り、柊を押し退け俺に抱き付く愛那に俺と柊は目を白黒させるのだった。
そんな騒ぎの中、花を花瓶に生けて戻ってきた美弥ちゃんはこの様子を他人事のように楽しそうに笑って見ていた。
まったく、これからの事を考えるとちょっと困るかなと思いながら、当面はこの騒ぎで看護士さんに怒られない事を祈る俺だった。