僕らの日々は。〜パンにまつわるエトセトラ〜-1
「はぁ〜…、退屈ねぇ…」
学校からの帰り道。
隣を歩く一葉が、唐突にそんな事を呟いた。
「…何だよいきなり?」
「最近心が踊るような出来事に会ってないのよ」
「ついさっき中間テストが終わったばかりじゃないか」
「テストは終わった後の開放感を楽しむものでしょ?そうじゃなくてさ、なんかこう……面白い事よ!」
抽象的過ぎて全然分からない。
「ダメダメね、春風。もっと想像力を磨きなさい!」
「いや、さっきの説明で分かったらエスパーだよ…」
というか一葉が『面白い』と思うような事が起こった場合、たいていとんでもない事になるので、できれば何も起きないでほしい。
「もう、だらし無いわねぇ………………ん?」
「え?一葉、どしたの?」
「………来るわ」
「………何が?」
「しっ!聞こえるでしょ?」
耳をすませてみた。
……遠くの方から賑やかな音楽が近づいて来る。
「あ、この曲って……」
「移動パン屋さんよ」
向こうからやって来たのは移動パン屋のバンだった。スピーカーから大音量で宣伝音楽を流している。
「いつも思うんだけど、何で移動販売の車って変な音楽流してるのかしら…?」
「変ってコラ。……目立たなきゃまずお客さんが来てくれないからだろ?」
「…そういえば魚屋は何故かいつも演歌よね。取り決めでもあるのかしら?」
「あぁ、確かに。なぜかどこの魚屋も演歌だよな」
話をしている間にも、ゆっくりとパン屋の車は近づいて来る。
「パン屋かぁ。……そういえば私、移動パン屋には苦い思い出があるのよね」
「苦い思い出?」
「あのさ、よく移動パン屋さんにアンパ〇マンの顔をデザインしたパンとか売ってるじゃない?」
そういや見覚えがある。
確か某未来のネコ型ロボットとか、某光の国の巨人とかのパンもあったような。
「それをね、小さい頃に買ったのよ。私アンパ〇マン大好きだったから」
「うん、それで?」
一葉は遠い目をして語った。
「……中身、チョコだったのよ。アンパ〇マンのくせに。……裏切られた気がしたわ」
中身がチョコの時点で既にアンパ〇マンじゃない気もするが、……まぁ気持ちは分からなくもない。
「あ、アンパ〇マンで思い出したんだけど。」
「何さ?」
「ほら、食パ〇マンいるじゃない?」
……またアイツか。
テスト前に『暗記パン』と称した食パンを一葉に食べさせられてからというもの、なんか最近度々夢に出て来る。
おかげで僕の食パン男へのイメージは酷く悪化した。
「……食パン男がどうかしたの?」
「あのさ、アンパ〇マンとカレーパ〇マンは頭が丸ごとパン一個じゃない?」
「あー、うん。それが?」
「私前から疑問だったんだけど……」
一葉はそこでちょっと間を置いて、真剣な表情で言った。