僕らの日々は。〜パンにまつわるエトセトラ〜-4
「せっかくだし買わない?」
一葉の問いかけにちょっと迷ったが、
「……ま、これも何かの縁か」
結局買うことにした。
▼▼
「ありがとうございましたー」
二人してアンパン男を片手に歩く。
「さて、中身は何かしらね?」
「商品名は一応『アンパ〇マンパン』だったけど…」
……どーでもいいけど、『アンパ〇マンパン』って言いにくくないか?
「まぁ、食べてみれば分かるか」
「それもそうね」
同時に一口。
「……………」
「……………」
無言。
またかじる。かじる。
「…………ねぇ、春風」
「…………うん」
しばらくして一葉が切り出す。
言いたい事はなんとなく分かっている。
「……何も入ってないわね」
「……あぁ、悲しいくらいに何も入ってないね」
もはやチョコがどうとかいうレベルじゃなかった。
やる瀬ない空気が流れる中、移動パン屋の車の音楽が遠ざかっていく。
「……これ、名前があるとしたら何パンマンかしら?」
「……さぁ。そのまんま『パンマン』とかじゃない?」
「……なんかどっかの宮崎県知事みたいな名前ね」
「いや、『そのまんま』は名前に含まないから」
もう移動パン屋の音は聞こえなくなっていた。
…あ、と一葉が何か思い付いた。
「……そうね、いっそコイツを『残飯マン』に昇格させてやるっていうのは…」
「ダメ。最後まで責任持って食べなさい」
「……冗談よ」
「いや、一葉顔笑ってないし。……なんかそこはかとないそのパンへの殺意感じるし」
「別に、アンパン男に期待をまた裏切られた……とかそんな事考えてないわよ。えぇ、全然考えてない」
ムスッとした表情で言われても全然説得力ないぞ。
……まぁ、何はともあれ。
今日付けで僕のアンパン男に対する評価が下がったのだけは確実だった。
「……まぁ、完全に逆恨みよね」
「……そうとも言う」
『パンにまつわるエトセトラ』 完