カナリア-1
『………甘い』
嗅ぎ慣れた煙草の匂いに交じって、知らない香水の香りがした。
綺麗な籠に閉じ込められた小さなカナリア。
甘ったるい香りは、
私を馬鹿にして笑ってる気がした。
それでもいいの、
彼は毎日餌をやりに私の所へ帰ってくるから。
開けっ放しの扉。
飛び立てない私。
離れたいのに
離れられないポディション誰にも譲れない私の立ち位置。
一番近くて一番遠い。
『煙草を吸ってみたい』
「駄目」
彼は頭を撫でながら私を宥める。
それ以上は触れてこないもどかしさ。
子守歌を歌う
あなたの隣に寄り添って。
悲しい愛の歌を歌う
独り誰も手の届かぬ籠の中で。
『Give me a kiss.』
「It is in a good child.」
声が枯れる程泣き叫んで、籠の下にうずくまっていたら
あなたは私を抱き締めてくれるだろうか?
歌えないカナリアは
「いらない」と
言われるのが怖くて
そんな駆け引きすら出来ない弱い私。
籠の中で歌い続ける。
頭を撫でる手の温もりだけを感じながら。