ソドム-3
300メートルは登っただろうか、
武の顔は険しくなり、息が荒い。しかし、まだ足取りはしっかりしていた。
真緒はしっかりと身体を密着させ、武の顔を覗き込む。
「大丈夫?武兄ちゃん」
耳元から聞こえる真緒の心配気な声に武が振り返ると、視線がボヤけるくらいの距離に真緒の顔があった。
大きく潤んだ瞳。少し開いた赤い唇。その不安気な表情に武は思わずドキリとする。
武は目を逸らすと、ごまかすように語気を強めた。
「心配するな!」
そう言って進んで行くが、すでにかなり疲労していた。
その時だ。真緒の頬を何かが叩いた。手で頬を撫でると、指先が濡れている。
(雨……?)
そう思った矢先、竹林がザワザワと鳴りだした。
「ヤバい!」
武の言葉と同時に、地面を叩きつけるような大粒の雨が一斉に降ってきた。
武はなるべく濡れないようにと、竹林沿いに先を急ぐが、風がジャマして思うように進めない。
(身体もだいぶ濡れてきた。このままじゃ風邪ひいちまう)
「真緒」
「なに?」
「ちょっと雨やどりするぞ」
そう言うと、武は帰り道から右に折れて山の奥へと通じる道を歩き出す。
「ホラッ、あそこだ」
10メートルも進んだだろうか。道の右手に小さな建物が見える。山の神を祭った祠だ。
観音開きの扉を開き、先に真緒を中に座らせると、自分も入って扉を閉めた。
わずか1畳あまりの広さ。扉が障子状のためか思った以上に明るいが、かなり埃っぽい。
だが、今は濡れないだけで有難かった。
2人は壁を背に、並ぶように座った。
「ごめん武兄ちゃん……私が早く帰ってたら雨に遭わなかったのに」
真緒は俯ていた。
「気にするなよ」
そう言って真緒の髪を撫でると、少しおどけた表情をして、
「しかし真緒も女の子だな!さっきの河原でコケる時〈キャッ〉なんて。昔はギャーギャーうるさかったのにさ」
「うるさいな!当たり前でしょ」
真緒は頬を膨らませ、むこうを向いてしまった。
武はそれを見て笑っていたが、
「オマエ、背中濡れてるじゃないか」
真緒が座る壁に水が滲んでいる。
「これくらい平気だよ」
そう言って気にした様子も無い真緒に対して、武は強い口調で、
「何言ってんだ!オマエに風邪でもひかれてみろ、オレが親父や美奈姉ェに怒られる」
「でも……これ脱ぐと下着に…」
真緒の困った顔を見て武は笑いながら、
「オマエの下着姿なんざ小さい頃に見飽きたよ。それにホラッ、オレのジャンパー貸してやるから」
武はジャンパーを脱ぐと、真緒の方に差し出した。