年上の事情。‐8-1
あたしは恵まれていると思う。
同級生のなかには、仕事がなく今だにバイト生活を送っている人もいる。
会うたびに「仕事を辞めたい」と話す人もいる。
あたしはやりたいことが仕事にでき、同僚達ともうまくいっている。
新しい店づくりというものは楽しいものだった。
自分が中心となって動いていくことにはプレッシャーを感じたが、頭のなかのことが形となっていくことは実に楽しかった。
壁の色、棚の配置、マネキン、キッズルーム、「スター☆スターズ」の看板…
オープンまでにはまだ日にちがある。
服はまだ並んでいない。
出来上がった内装を見ながらあたしは物思いに更けた。
あたしは恵まれていると思う――。
1週間の出張を終え、地元の駅へと着いた。
今日は休日。まだ午前中だというのに駅周辺には人が溢れかえっていた。
ウチに帰ってゆっくり休もう‥
仕事の緊張が溶け、あたしはひどい顔をしていたと思う。
「五十嵐‥さん?」
あ。
目の前から歩いてくるのは鳴海淳吾だった。
「お疲れさまでした。今帰りですか?」
久しぶりだ‥
鳴海くんの笑顔。
一気に力が抜ける。
この1週間は考えないようにしていた。
立花くんの気持ち。
そして、
鳴海くんへの気持ち。
「‥?
お疲れですね。荷物、持ちますよ」
「あ、ありがと‥」
あたしはキャリーバックを引きずりながら、肩にも資料の入った大きな荷物を抱えていた。
それをあたしの肩から取り、鳴海くんは持ってくれた。
そして、あたしのペースに合わせて隣を歩いてくれる。
やっぱり、ホッとする。
この空気。