年上の事情。‐8-3
「びっくりしたぁ‥
どうしたの?」
思わず本音が出てしまう。
「いや、あの‥五十嵐さん今日出張から帰ってくるって聞いて‥
それで、会いたくて‥来ちゃいました」
彼はおどおどしながら言った。
そんなストレートに言われると、あたしでも照れてしまう。
こういうとき何と言ったらいいのだろう。
あたしが返事に困っていると、先にまた彼が口を開く。
「あ‥ごめんなさい。
誰か来てたんですね‥」
あたしの足元を見ながら言う。
視線の先には男物の靴。
つまりは鳴海くんの靴があった。
「あー、これ‥」
あたしが言い始めたときには立花くんは前を向いていた。とても驚いた顔をして。
「なんで‥っ?!」
鳴海くんが立っていた。
「偶然駅出たら会ってね、ウチまで荷物運んでもらったの」
‥って、何だかあたし言い訳してるみたい。
でも、そう言いたくなるような空気が漂っていたのだ。
「五十嵐さん、オレ帰りますね」
鳴海くんはそう言って靴を履きはじめた。
「あ、うん。ありが‥」
「おいっ」
あたしの言葉を遮って、立花くんが呼び止める。
ただならぬ空気‥
フッ‥
鳴海くんは鼻で笑い、そして言った。
「お前が思ってるようなことはないから」
立花くんは黙って鳴海くんを見つめている。
あたしの視線は2人の間を行き来する。
「五十嵐さんは先輩。
それ以上の感情は‥ない」
そう言って、振り返ることなく彼は出ていった。