多分、救いのない話。-4--2
「つまるところ、金で黙らせるんですか」
「…………」
シャーペンの動きが、止まった。
「葉月先生。私も何度かメグちゃんのお母さんと会ったことがあります。……優しく穏やかな人、だと、私は思ってました。今でも思ってます」
「だけど神栖は……!」
「最後まで聞いてください。……本当に、優しい方だと思ってます。けど、葉月先生の言う通りのことが行われていたとしても、私は驚きません」
「……ぇ?」
「矛盾、してるように思えるかもしれませんけど。いや、寧ろその『矛盾』こそが、問題の根幹になってるかもしれない」
「……行為の理由が、憎悪ではなく、愛情から来る……過剰な教育だと、水瀬先生は考えてますか?」
「…………」
キーンコーンカーンコーン
授業終わりのチャイムが鳴った。生徒の居ない授業中、葉月の授業のない時間を狙って来た相談の時間も、もう終わってしまった。正直なところ、もう少し話したかったが、これからいくらでも話し合うだろう。解決を焦ってはダメなのだから。
「葉月先生」
保健室から出ていく葉月に、言い聞かせる声。
「深入りしすぎないでください。あなたもメグちゃんも、きっと傷つくでしょうから」
はい、とだけ答えて、ドアを閉めた。嘘だった。
――もう一度、自分に言い聞かせる。
親が、子供を、傷つけてはならない。
そんな親は、いない方がいい。
そうに決まってる。決まってる。
そうじゃなかったら――
(アレは、正しくなるじゃないか……!!)
葉月の過去の『傷』が、ほんの少しだけ開く。痛みを感じ、すぐに閉じた。忌まわしい記憶はわざわざ思い出す必要のないことだ。