結界対者・終章-9
「ほう! それが新しい旋風桜か! なるほどな、目元がシオリにそっくりだ」
なんだ、このガキ、俺の母親の事を呼び捨てにした上に、俺の事を「ソレ」呼ばわりしやがった……
「サオリさん、この子は?」
「え? ああ、紹介するわね……」
思わず怪訝な顔を向ける俺に、サオリさんが慌てて向きなおる。
と、その間に割り入る様に、先ほどの老いた男の声が
「これ、アヤネ様、失礼でありますぞ!」
静かに、重く響いた。
「あら、都築も! 久しぶりね!」
「ええ、お電話を頂いた時は本当に驚きました。それで、例のものは」
「ええ、これで、足りるかしら」
言いながらサオリさんが、腰のあたりから何かを取り出して、その都築と呼ばれた男に差し出す。男は、ソレを受け取ると
「結構でございます。では、取り急ぎ、準備をさせて頂きましょう」
自らの顔の前で、それを広げて確認するように凝視した。
「サオリさん、あれって、さっき春日ミノリの血を拭いた……」
「そう、ハンカチよ。あの春日さんの血液から、やつらの…… ジルベルトの連中の大体の様子が判る。 と、その前に…… 都築! ちょっと待って!」
振り返る男と不意に目が合い、互いに反射的に軽く会釈をする。
「始めまして、柊です」
「この家で、アヤネ様のお世話をさせて頂いております、都築と申します」
それ以上、話す言葉が見付からないから、とりあえず黙る。
それは、相手にとっても同じだった様子で、再び軽く会釈をすると俺の目の前から離れていった。
「イクト君、今のが都築さん。結界霞清水であるアヤネ様の、お世話をしている人よ」
「え? あ……」
アヤネ? 霞清水?
このガキが?
「そして、こちらが…… 」
サオリさんが言いかける、と同時に先ほどの少女が
「こら、サオリ! 私を先に引き合わせるのが筋だろうに!」
再び甲高い声を投げた。
「ごめんなさい、アヤネ様。都築が忙しそうだったもので…… もう解ってるみたいだけど、こちらは柊イクト君、旋風桜の対者よ。そして、イクト君? こちらが、結界霞清水の対者、菅澤アヤネ様」
この、ガキがかよ?
「あ、貴様! 今私の事をガキとか思っただろ!」
「え! ええっ?」
な、なんて勘が鋭い!
「勘じゃないぞ? 解るのだよ」
「そ、そんな……」
「驚く事はなかろう? セリとて、このように貴様の心を透かしたろうに」
あ……
「ふふ、まあよい。あと、ついでに言わせて貰うが、私の物言いに対して生意気だとか思ってくれるなよ? こう見えても私は、貴様よりも遥かに歳を重ねておる」
やばい、また混乱してきた。ていうか、さっきのだって、はっきりと頭の中で整理がついていないってのに。