結界対者・終章-8
「サオリさん、ここって……」
「菅澤の家、そして…… 結界霞清水が存在し、その対者が住まう場所」
「カスミシミズ……」
そうだ、色々とあって、すっかり忘れていたが、結界は四つあるって事を、俺は間宮に以前聞かされた事があった。
結界は四つ、対者は四人、となると今行動出来る対者は、俺とサオリさんだけではない、つまりこの水の対者の
「なるほど、助けを借り……」
言いかけて気が付く。
俺は今まで、水の対者ってヤツを見た事が無い。
たしか、対者は忌者の出現と同時に、それを守る為に結界に導かれる筈。それなのに
「初めて会うわよね?」
「え? ええ……」
「彼女はね、特殊な存在なのよ。強大な力を持ちながらも、その為にこの屋敷から出る事が出来ない」
「それってどういう事です?」
「それはね……」
言いながら車を屋敷の前に停め、ドアを開けながら
「会えば解るわよ」
更に言い置いて、車を降りる。
慌てて後を追うと、既にサオリさんは、屋敷の玄関であろう扉の前に立ち、ノブに手をかけていた。
「勝手に開けて良いんですか?」
「ここは、私の実家みたいなものだからね」
実家、ねえ……
扉を開き、中を覗きながら
「都築(つづき)! 都築は居るっ?」
建物の中へと叫ぶ。すると、中から微かに、老いた男の声が
「手が離せません、そのままお入り下さる様……」
と、とりあえずこちらを迎えた。
「この屋敷はね、それ自体が結界の様なものなのよ。まあ、正確には予備結界って言うんだけど……」
「それ自体、ですか?」
歩き出したサオリさんの声を、その背中越しに聞きながら、俺もまた彼女の後を追う。
屋敷の中は薄暗く静かで、少しだけ外より気温が低い感じを受けたが、それとは対照的に何処か懐かしい温もりを感じる様な雰囲気があった。
「どういう経緯でそうなったのか、私は判らないんだけどね」
「え?」
「彼女だけ、水の結界の対者だけは、私達とは違うの」
「どういうことです?」
「彼女自体が結界なのよ。そして対者でもあるの」
「それって、どういう……」
訊きかけたその時、前を歩くサオリさんの背中の向こうから、
「サオリ! よく来たな!」
不意に、幼く甲高い声が響いた。
「久しぶりね、アヤネ様」
それに応える、と同時に俺の視界にも和装姿の一人の少女が飛び込んでくる。
藍色の着物に紫の帯、年は中学生くらい…… いや、それよりも下か? 長い黒髪を揺らしながら、こちらに近づき端正な顔立ちをニンマリと緩めながら、こちらに視線を投げる。