結界対者・終章-7
えっ?
「イクト君、今話したセリの全ては、誰にも言わないでいて欲しい。これはね、本当は、あなたに話してはいけない事だったの。でも、いずれ、それでも敢えて私が、あなたに全てを話した事の意味が解る時が来る。だからその時まで…… ね?」
「……解りました。でも、サオリさん」
「もし、間宮を助けた後に、あいつが俺の心を見抜いて、これを知ってしまったらどうするんです?」
「……うまく誤魔化して」
「……!」
「ね、今まで私が、そうしてきた様に。……お願い、イクト君」
―3―
どれくらい走っただろうか。気がつくと窓の外は、静止した街並みから緑色の景色へと変わっていた。
俺は、おそらくここは、街外れなのであろうとは思いながらも、今自分が居る場所がハッキリと判らず、ただ黙り込んだままフロントガラスの彼方に視線を固めていた。
サオリさんもまた、語り終わると同時に黙り込み、それが張り詰めた静寂となって、車の中を満たしていく。
確か、スガサワと言ったか……
向かう先は、先ほどサオリさんが言っていた、スガサワという名の場所なのだろう。
何故、何の為に向かうのか……
少しだけ考えてみたけれど、敢えて訊く事はしなかった。
行かなければならないから行くのだ、それに、これ以上何かを聞いた所で、その内容を理解することは今の俺の混乱した頭では到底無理だ。
「そろそろ、着くからね」
思い出したように告げる、そんなサオリさんに
「へ? ええ」
気の抜けた声を返してしまう理由も、その理解できない理由と同じ。
「イクト君、大丈夫?」
「え? ええ。そうじゃないように……」
「見えたわよ」
固まっていたサオリさんの表情が、少しだけ緩んだ気がした。俺も、釣られて頬を崩そうとするが、なんだか上手く笑えない。
「無理もないわね…… さっきの、ショックだった?」
「いえ、ただ、突然で」
「あははっ、突然か」
「いや、暫くすれば、慣れますよ。 間宮と出会ってからの事だって、初めは驚いたけど、今はこうして何とかやってるわけですから」
「そうね、そうでなければ困る」
「サオリさん?」
「あの娘には、あなたが必要なのよ」
間宮に、俺が?
その最後の言葉を訊き返そうと、口を開いた時だった。
突然、フロントガラス越しの景色が開け、目の前に屋敷の様な大きな建物が広がった。
それは何か、映画で見た事のある様な、いかにも「御屋敷」といった建物、しかし華やかとか贅沢といった類の表現にはまるで縁の無い佇まいで、寧ろ人が住んでいる事を疑いたくなるような雰囲気を呈している。