結界対者・終章-24
上級の術者……
「じゃ、これで私とは、本当にお別れね」
「……何?」
「次の仕事が待ってるからね、『春日ミノリ』は『父の急な転勤』により今日で転校するわ」
「おい、ちょっと待て! サオリさんは、サオリさんはどうなったんだ!」
「……死んじゃいないわよ」
「……!」
「もう授業が始まるから、行くわね?」
「え? ……ああ」
「……それと、セリなら、屋上に居る筈よ」
踵を返し、春日ミノリが教室へと消えて行く。そして、俺もまた振り返り、授業が始まって誰も居なくなった廊下を全力で駆け出す。
間宮……
屋上、屋上へ!
一瞬、あの楽箱の非常階段を駆け登った時の、あの感覚が頭の中に蘇った。そして、それはそのまま、間宮に会いたい気持ちに重なり、加速していく。
間宮……
階段を登りきり、最後の踊り場へ足をかけ、取っ手を捻るのももどかしく、鉄の扉を押し開ける。
「間宮……!」
開け放つ扉の彼方、いつもの屋上の縁の、フェンスにもたれて、間宮は居た。
「柊…… ?」
静かに振り返る視線が、俺から投げ掛けられたそれと、緩やかに交わる。
「無事だったんだな」
「無事…… ?」
「ああ」
「……解らない」
「間宮?」
近付くと間宮は視線を反らし、それまで眺めていたのであろう校庭へと、再び向き直り双眸を落とした。
「夢を見たわ……」
「夢?」
「そう、怖い夢だった。私の中に、いろんなモノが入って来るの。気持ち悪くて、頭の中が壊れそうで、どうしようもなくて……」
「あ……」
「そしたらね、アンタが助けに来てくれて、それで言うのよ。ずっと……」
「ずっと、そばに居てやる、だから恐く無い、もう大丈夫だ」
「…… !」
驚いた間宮が、弾かれた様に振り返り、その頬がみるみる赤く染まっていく。
俺はただ、そのまま間宮を見つめる。
空は青く、校庭から吹き上がる夏色の風が二人の間を行き過ぎ、間宮の髪をそっと揺らして、彼方へと消えて行った。
結界対者 完