結界対者・終章-23
『目覚めてしまったと私が感じたら、私は私の全てを使って最大の力で時間を戻す』
不意にサオリさんの言葉が、頭の中に響く。
そうだ、サオリさん…… 間違いなく、サオリさんの仕業だ! 夢なんかじゃなかった、あれは現実で、俺は此れ迄に有り得ない程に戻された時間の中に居る。
待てよ? それじゃ、間宮はまた……
慌てて、バカ本に駆け寄り、喰らいつかんばかりに
「先生、間宮の事ですよね!」
言い放つ。
「おお、柊! よく判ったな。そう間宮の事だ」
やはり、だ。
「間宮の奴、遅刻して来たと思ったら、早速居眠りを始めやがって、起きたかとおもえば、いきなり教室から出て行きやがった」
えっ?
「柊、お前からも、なんとか言ってやってくれ。俺はもう、完全にお手上げだ。な、頼んだぞ?」
前と、違う…… ?
いや、油断は大敵だ。どうすれば良いか解らないけど、今度こそ間宮が拐われないようにする、今はそれが、一番やらなければいけない事なのだから。
馬鹿本への挨拶もそこそこに、踵を返し間宮の教室へと走り出しながら、もう一度間宮が消えた時の事を思い出す。
あの時、教室全体に妙な魔法をかけて、間宮を楽箱へ飛ばしたのは春日ミノリだ。春日ミノリ、春日ミノリをなんとかしなくちゃ……
やがて、俺は休み時間の終わりかけた間宮のクラスに辿り着き、入り口の引き戸に手をかけた。すると、誰かが、俺の肩を後ろから軽く触れる様に叩く。
だれだ…… っ!
「ふふ、柊君、私に用があるんじゃないの?」
振り向いたそこには、春日ミノリが何食わぬ表情で、薄い笑みを浮かべながら立っていた。
「春日、てめえっ!」
「……やめましょ?」
「なに?」
「私達の負けよ」
「……え」
「ブルゲ様は…… ギス・ブルゲは消滅したわ」
な、なんだと?
「間宮セリの力が目覚始めた瞬間は、私にも判った。でも、あの間宮サオリは目覚める少し前に、それを察知して時間を戻し始めていたのね」
「なんだ、それ」
「まあこれは、私の推測だけど。間宮セリの覚醒と間宮サオリの力の全開放出、この二つのタイミングが絶妙に一致してしまったの。セリが目覚め始めて、その衝撃でブルゲ様が消えて、それと同時に間宮サオリの術で時間が戻って、そして私と柊君が今ここにいる」
「春日…… お前は」
「心配しなくていい。間宮セリにも、あなた達にも、もう私のレベルでは手出しが出来ない。これでもね、上からの指示には忠実なのよ、私」
「…………」
「ただ、油断はしない事ね。今後、もっと上級の術者からの干渉があるかもしれない。ふふ…… その時は、まあ精々頑張りなさい」