結界対者・終章-16
「イクト君、よく聞いて。 今から私が、このテレビを叩き壊す。そしたら、あなたは、この部屋の端の、あの廊下の向こうに見える非常口に向かって全力で走って」
えっ…… ?
「あの非常口を出た所に、上へ登れる非常階段がある。さっき外にいる時に確認したから、間違いないわ」
……!
「それを登って、セリのもとへ向かう。いいわね?」
……はい!
「じゃあ、行くわよ!せーの……」
瞬間、振り上げたサオリさんの右腕が振り下ろされると同時に、目の前のスクリーンが「ガシャ」と鈍い音を立てて砕けた。サオリさんの右手には、知らずのうちに例の裟化釖が握られていて、たった今スクリーンを砕いたであろう刃先が、室内の照明に照らされて鈍くギラリと光る。
「早くっ! イクト君!」
そうだ、全力で!
夢中で床を踏みつけ、なりふり構わず千切れんばかりに両腕を振りながら、俺はホールを駆け抜け非常口の緑色が光る、廊下の入り口を目指す。
『ははっ、愚かな。無駄ですよ、それを壊したところで、私には貴方達の動きが全て……』
突然、頭の中に、ブルゲの声が響いた。が、しかし、それを打ち消す様に
「大丈夫、とにかく走って!」
サオリさんの声が響き、戸惑う俺の背中を押す。
『全く、仕様の無い…… リーザ、取り押さえてしまいなさい』
リーザ、だと?
その時、夢中で駆ける俺の目の前に、冷たく固い巨大な何かが現れ、突然のそれに対して止まりきれない俺は、頭からそいつに衝突し、弾き飛ばされ、床面に全身を叩きつけられた。
っ痛ぇ…… な、なんだっ?
慌てて見上げたそこには、鎧…… というよりは、西洋の甲冑を纏った大男が立ち塞がり、無言のままに俺を見下ろしている。
「なんだ、こいつっ…… 」
「イクト君、大丈夫っ?」
「サオリさん…… サオリさんはっ?」
「大丈夫、と言いたい所だけど、そうはいかない様ね」
振り返りながら見回すと、周囲には先ほどの甲冑がいくつも立っていて、どうやら俺達は
「囲まれた?」
「みたいね」
身動きがとれないまま、徐々に距離を詰めて来る目の前の甲冑を睨みつける。
畜生、こいつらをなんとかしない事には、前へ進めない……
すると、突然
「あははっ! いい気味ね、サオリさん! それに、イクト君も!」
取り囲む甲冑の壁の向こう側から、甲高い嘲笑う様な声が響いた。