結界対者・終章-12
「ほれ小僧、壺に集中しろ! 奴らが何をしようとしているのかが判る、何かしらの手掛りがあるやもしれん。それに大丈夫、セリはそこに居る。壺の向こう側から気配を感じるのだ、間違い無い」
居るのか、間宮が?
春日ミノリの歩く早さと同じ速度、そのスピードで揺れながら迫り来る壺の中の景色を俺達は凝視する。様子から察するに、どうやら春日ミノリは、建物の上階へと向かっているらしい。
「イクト君、これエレベーターね」
「ですね、これは確か樋山の…… いや、樋山さんの居たオフィスへ直通の筈です」
「ふん、樋山か。アレも愚かな事をしたものだ」
やがてエレベーターが停まったのか、目の前の扉が左右に開き、その彼方の様子が壺一面に広がった。
「あれ? サオリさん、誰か居る?」
「ええ…… あ、こいつっ! 店に来た男!」
かつて樋山が座っていたデスク、そこにはサオリさんが会った事のあるという、顎に髭を少々揃えた落ち着いた風貌の外国人の男の姿があった。
そしてそれは、椅子にゆったりと腰を下ろし、こちらに挑戦的な視線を投げかけながら
『リーザ、そのままだ、動かずに私を見ていろ』
酷く厳しい口調で言い放つ。
「に、日本語だ…… しかもリーザ? それが、春日の本当の名前なのか ?」
「しっ、小僧! 黙っておれ。何やら様子が妙じゃ」
壺の中で、男がこちらを見据えている。かと思えば
『間宮さん、御覧になられていますよね。ジルベルト・セントラルのギス・ブルゲでございます。先日は失礼致しました』
流暢な日本語で言いながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「なにこれ! 向こうから、こっちが見えてるのっ?」
「落ち着けサオリ! 向こうから見えてるという事は無い! お前に呼び掛けたのは、向こうがお前の名前しか知らないからじゃろうて。だが…… 間違いなく感付かれておるな。」
混乱する此方を嘲笑うかの様に、その男「ギス・ブルゲ」は続ける。
『さて、先日お伝えした通り、少々強引ではありましたが、セリ様に此方へお越し頂きました』
こいつ! 馬鹿本を殺しておいて、何が「少々強引」だっ!
『早速、セリ様の秘めたる力に関して調査を開始いたしましたが…… ふふふ、上手く行かないものですねぇ。どうしたら力が発動するのか、我々の技術の粋を結しても、解析不能なんですよ』
「あんた達、セリに何したってのよっ!」
堪えきれずに、サオリさんが悲鳴にも似た叫びをあげる。
『……そこで、モノは相談なんですが、私共に情報を提供して頂けませんかね。もちろん、只でとは言いません。そうですね、力を解放する方法を教えていただければ、セリ様を無事に返して差し上げるというのは如何でしょう。フフ…… 単刀直入に申し上げますと、我々が欲しているのはセリ様の力のみなんですよ。では、この楽箱にて、お待ちしております。……よし、リーザ、お前は新しい腕を接いでもらって来なさい。その義手では見映えが悪過ぎる。但しアイマスクをしてからな』
その言葉を最後に、壺の中に映っていたそれは、ただの闇へと変わった。