結界対者・終章-11
「それと、イクト君。あの掛け軸を見てみて?」
「掛け軸?」
「そう、実は私も、久しぶりに見るんだけどね。なにしろ、セリと一緒に此処へ来るときには、都築が事前に外しちゃうから」
昔の絵だ。まるで骨董みたいな……
あれ?
「気がついた?」
「これって……」
そこには、一人の僧侶が、槍を構えた大勢の兵士と向き合う様子が描かれていて、その僧侶は間宮と同じ
「赤い目……だ」
「そう、あれが迥霍(ぎょうかく)、結界の根源」
結界の根源……
「ほれ! サオリ、小僧! もたもたするな、術を放つぞ」
思わず立ち止まり、掛け軸を見上げた俺に、アヤネが声を投げる。そして此方の視線が向けられるや否や、先ほどのハンカチを、硝子の壺の中へ投げ入れた。
「さてさて、如何な物か…… まあ、おそらくセリは、あの楽箱の中には居るのだろうがな」
壺に手をかざし、瞳を静かに閉じながら呟く。
と、その瞬間、壺全体が鈍く光を放ち始め、中身の水らしき液体の表面に、細かく小波が立ち始めた。
な、なんだっ?
目の前で突然始まった不可思議な光景に俺は、ただ呆然と立ち尽くす。
やがて暫くすると、目の前の壺の輝きは消える様に薄れ、それに並々と溜められた液体の中に、見覚えのある風景が鮮明に映し出され始めた。
これって! 楽箱っ?
間違い無い、楽箱の中だ。しかし、何故……
「イクト君、これはね? アヤネ様の持つ術の一つなの。相手が残した物を、霊力を溶かした水に浸す事によって、その相手の視点から世界を見る事が出来る」
壺の中に映った、その景色に視線を落としたまま、サオリさんが呟く。そして俺も、壺に視線を奪われたまま
「と、いうことは、これは春日ミノリの!」
「そう。彼女の視点から見た世界。あの子、どうやら楽箱に行った様ね。それとも、戻ったと言った方が正しいかしら」
「じゃあ、間宮もここに?」
「おそらく、そうだろうけど…… まだ解らない。連中がセリを連れ去って、一体何をしようとしているのかが、まだハッキリと解らないし」
「あいつら、間宮をどうしようってんだ……」
先程のサオリさんの話の中の、ジルベルトの連中が残した言葉からは、奴らが間宮を欲しがっているという事実しか把握出来ない。
つまるところ、間宮を拐って何をしようとしているのかは
「解らない。実際のところ、連中はセリの事を、どう認識しているのかしらね。手に入れたい力として見ているか、それとも早めに消してしまいたい脅威としてか…… とにかく、今は春日ミノリが楽箱の中で、セリと何らかの形で接触してくれる事を祈るしかないわね」
「え?」
「あの娘が、セリが本当に楽箱に居るのか、それだけでも知りたいでしょ?」
そうだ、楽箱に間宮が居るっていう事だって、あくまでも推測でしかない。
畜生、早く助けに、連れ戻しに行かなければならないのに、こんなに判らない事だらけでは……