FULL MOON act3-1
ざー ざー ざー
『…待ってるから。
会いに来てくれるの、待ってるから。』
私はそう言って電話を切った。
その時までは、彼が来てくれると半分くらい思っていた。
彼は来なかった。傘をもつ癖がないからぬれっぱなしだったけど、待つって言ったからずっと待ってた。
彼はその癖を知っているはずなのに来なかった。
髪から水がしたたり、鼻に落ちる。
その時やっと気付いたのだ。彼は本当に私と別れたいのだな、と。
ああ…イヤなことを思いだしてしまった。
私はぼんやりとうなるケータイを見つめる。何でメールなんてくるの?何も考えられずただケータイを見つめた。変。私たち別れたはずなのに。
本文にはただ、
『会いたい。』
の一言。
欲張りなのは貴方のほうでしょ。私には、気になる人ができはじめたんだ。今更こんなメール送ったって遅いんだ。私があんなに貴方を必要としていた時は貴方は来なかったくせに。もういらないんでしょ?こんなメール送らないでよ。
「…安西さん?」
あ…。
高坂さん。
「どうかした?何か焦点があってないけど。」
「い、いえ。別に。なんでもないです。」
彼は眉をひそめる。
「…ホントに?」
…どうしたらいいのか。本当のことを言えばいいの?元カレからメールがきた。って。
言えない。でも嘘もつきたくないよ。
だから、
「抱きしめてください。」と、私はいった。彼の私と同じボディソープの香りをかぎたいのだ。
そしたら安心していえるはず。
「わかった。」
きゅっとかれめとられるのを感じた。彼の胸板に頬を押しつける。シャワーを浴びたばかりでいつもより体温が高い。ちらりと彼を見ると優しく見つめてくる。そして、口をつけた。彼の体温が高くてさっきの余韻が私を高ぶらせる。
さっきしたばかりなのに…
さっきは乱れた。果てしなく乱れてた。
彼の指が熱いから…。
「高坂さんって…」
「ん?」
「めちゃSですよね…」
彼は小さく、微笑む。
「今さら。」
仕事場ではあんなに冷静なのに。この人は…。
彼は私の胸に手を移動させ、感触を楽しむように優しく触る。
チリチリと、香りが脳の快感を促す部分を刺激する。彼の唇が耳に移動する頃には私はもう何も考えられなくなっていた。