FULL MOON act3-9
「『私も好きかもしれない。けれど、私にとってあんちゃんは、大事な友人なの。』」
一字一句覚えているのだろう。彼はぽつりと呟く。
「…付き合わないの?」
「…うん。」
「……ごめ…ん。」
「なんでめぐが謝るんだよ。」
もはや、我慢はできなかった。私はなんてまわりが見えていないのだろうか。そして、みんなはなんて優しいのだろうか。
ボロボロ、と涙を流す。大事な人を二人も同時に傷付けていた。そして、私だけ高坂さんに甘え、幸せになろうとしている。
そんなこと…そんなこと…とても出来ない。
「泣くなよ。」
「…ごめんね。ちょっと…待って…。」
彼は私の頭を撫でようとする。私はそれを制した。それをしていいのは私にじゃないはずだ。
夏樹でしょ?本当は夏樹を撫でたり、抱き締めたりしたいはずでしょ?
――欲張りだよ、めぐは。
ほんの数日前の彼の別れ際の言葉を思い出す。欲張りだ…初めはその真の意味を分からずにいた。そして彼の行動の不明瞭さから、彼の方が欲張りだ、なんて思っていた。
けれど、違った。違ったんだね。
私は、彼も、夏樹も、そして高坂さんまで手に入れようとしていたんだ。
欲張りだ。欲張りを通り越して、どこか狡猾ささえ感じてしまう。
ずるい。
彼の、欲張りだよ、という言葉は思わず漏らした本音だろう。だからこそいつまでも私の心にのしかかる。ずしりと。
息を思いきり吸った。泣いてばかりでは…一向に進歩がない。気持ちを整え、私は彼を見る。
心配そうに見つめる彼は私が愛した頃から変わっていない。変わらず、愛しい人だ。
けどね、もう二人に悲しい思いは…してほしくないよ…
心に堅い仮面を作ろう。優しい優しい仮面を。二人がそうしてくれたように。
「いつから好きだったの?」
彼は黙る。言っていいのか迷っているのだろう。
「これ以上嘘をつかれる方が傷付くの。」
「…たぶん、初めて会った時から。」
そっか…。私は呟く。そして、また尋ねる。
「本当のことを話して、どうするつもりだったの?」
彼はいぶかしげに私を見る。私はそんなことをいう人ではないのだ。しかし、今は聞かなければならない。
「…白井と付き合いたいと思ってることで、二人の友情が途切れたら…イヤなんだ。でも…もう嘘をつくのはイヤだから、めぐに白井を嫌いにならないで欲しいと思って。」
嫌いになるわけがない。大事な友人だ。自分の恋心をおさえてまで私を応援してくれる。…笑顔で。いつも笑顔で。私の気持ちを晴らしてくれる。
だから、ね。