FULL MOON act3-10
「そんなわけないじゃない。私が夏樹を嫌いになるなんて…。それに…私も…啓太に話すことがあるんだ。」
「…なに?」
啓太はかすれた声で言った。
まさか、こんな風になるとは思わなかった。
きっと…これでお互い次の恋愛にいけるのだ。恋愛の数は人の数。それを心で思う。
あのね……。
「バイト先の人に告白されたの。私も、何だか気になってたから、付き合うことになると思う。………だから、二人共私になんの遠慮もしなくていいんだよ…」
すらりと、それを早口で…しっかりと、いう。
目の前の彼は…呆然としている。
「あ…そうなんだ。」
「うん。」
「…めぐもその人のこと好きなの?」
私はその言葉を聞くと、なんだか確信にも似た気持ちがわいてきた。すーっとモヤモヤが消えてくのを感じる。
「…好き。」
あの強引な手や口や…けれど私を熱く想っていてくれている…その優しさ。
コーヒーを飲む。
高坂さんを、少し感じた。私の中にはもう彼がいる。なんだか元カレの前でそれを認識するのは、いやだけど。
「私、すごく好きだったじゃない。啓太のこと。」
「…うん。」
「だから、いつもはあんまり飲まないのにバイトの飲み会で…意識がなくなるまで…飲んじゃって…。」
「…うん。」
「…その人が介抱してくれて、私に告白したの。元カレのことを想っててもいいよって……言ったの…」
「…すごく…嬉しかった…。」
嬉しかった。
嬉しかったのだ…。
半ば強引に繋がった体だけど、啓太以外も愛せるって知ってしまった。私はもう他の人を…体を…知っている。
それだけで、もう啓太とは付き合えないのだ。
「私から、夏樹にはいっとくから…」
「それ、白井、知ってる?」
「うん。…さっき相談しちゃったよ。」
夏樹の寂し気な顔を思い出す。
「そっか…。なら俺から言うよ。ちゃんと、言う。」
「…うん。頑張って!…西野くん。」
クスっと笑いを含めていうと、彼は久しぶりに笑った。
「安西も。」
出会った頃のようには戻れないかもしれないけど…私たちはお互いの道を歩むしかないのだ。