Betrayar-2
「今日は獲りにいくわよ」
野望に満ちた目で語る相原。対して鷹谷は彼女の勢いに萎縮した面持ちだ。
〈ポンッ〉という柔らかい音と共に目の前の扉が開く。
相原と鷹谷はエレベーターに乗り込むと、20階で行われるコンペティション会場へと向かった。
国立大学の移転工事。
完成まで第4期からなる大規模工事だ。
第1期工事はゼネコンである武中により、3ヶ月後の完了を迎えつつある。
今回は、再来年開始予定である第4期工事のコンセプトに沿った設計デザインを、サブコンから募集、選出するというものだった。
当然、どのサブコンもこぞって獲りに出る。大型事業となれば、その儲けは相当の額に及ぶからだ。
相原達の所属する〈新日本熱学〉も同様だった。
年功序列が慣例の建設業界にあって30代半ばでの課長職、まして女性というのは異例なモノだった。
ー1週間後ー
果たして、新日本熱学はコンペティションに選ばれた。
だが、その内容は以外なモノだった。
担当者は言った。
「〈高砂建設〉主体のJV(ジョイントベンチャー)で、お願いしたい」
相原の頭の中は真っ白になった。
高砂建設主体という事は、彼らの下に入れと言うのと同義語で、自分達の設計はまず生かされない。
これではコンペティションに敗けたも同然だ。
動揺した表情のまま相原は答える。
「…分かりました。お受け致します……」
「それでは契約書の草案などについては後日、連絡させてもらいますので……」
担当者からの電話が切れた。
受話器を元に戻しながら、相原は先日のコンペティションで見た、高砂建設の担当者を思い出していた。
濃いブラウンのタイトスカートとジャケット姿。
肩口まで伸ばした髪は、日本人形のように揃えられている。
30代後半だろうか。同じ業界で、同姓に逢うのは珍しいと、相原は名刺交換をした。
そして、その肩書きを見て驚いた。
部長代理。真木綾子。
綾子はにっこりと微笑むと相原に言った。
「お互い頑張りましょう」
自信ともとれる余裕の言葉だった。
(くそっ!あの時、すでに決まってたんだ……)
虚脱感の中、相原の頭は、別の事を考えていた。