Authorization Lover-VOLUME8--1
同じ環境に暮らしていても、望みがある時とない時では楽しさ苦しさはまるで違う。
同じ仕事をしていても、目的がある時と、嫌々やっている時では、疲れ方が全然違う。
人間はそういう仕組みになっているんだ。
どんな職場にも、忙しい時期と暇な時期がある。
もちろん、頻度の違いもあるし、もともとの忙しさが違うから、同じようには語れない。例えば、寂れた古本屋の忙しい時間よりも、駅前にあるコンビニの暇な時間の方が、絶対的な忙しさでは上かもしれない。
だが…佐々木修平はしみじみと思う。
今の企画の忙しさは何だ?
「ちょっと!!修平!そこでボーッとして立ってないでよ!」
「すっすみません!」
「B物産からお電話です!」
「誰〜?勝手にKデパートの約束取り付けた人〜?」
「オブジェが届いてないそうです!至急電話を…」
「誰がKデパートの見取り図の現物持ってたのよ!?」
…企画室は阿鼻叫喚の地獄と化した…。
まぁそれも仕方ない事だと思う。
企画は与えられる仕事量を考えれば、絶対的に人数が少ない。
以前は今よりも人数はいたし、仕事も今よりは比較的に楽といえるものばかりだった。
…柴田部長が飛ばされてからだ。ここまで忙しいのは。
柴田部長は優しい人だった。誰に対しても。
雛菊とは仲が悪かったが。…とは言っても雛菊が勝手に嫌ってるようだったが。
まだ部長が柴田だった頃、二人で飲みに行った際に、そんなに部長が嫌いなのかと、雛菊に尋ねたら嫌な顔をしてから、吐き捨てるように言った。
「誰に対しても平等に優しいっていうのは誰に対しても同じって事よ。」
八方美人って事っすか、と尋ねると雛菊は不機嫌そうに髪を掻き上げて「もういい」とだけ言った。
雛菊の言いたい事は分かっていた。
柴田が平等に優しいのは、誰も特別な人などいないだけだ、と言いたかったのであろう。
修平は、別にそれでもいいとは思っていた。
冷めている訳ではないが、そこまで深追いする気はなかった。
特にあの時は雛菊の事ばかり気になっていて、柴田の事まで気が回らなかった。
市井銀の事も、全く知らなかった。
今日のあの瞬間まで。