Authorization Lover-VOLUME8--3
そこで「俺で良かったら」の一言がついて出る。
もっとも、今修平が言うべき台詞は別にあるのだが。
「…それは市井さんの事ですか?」
下睫毛では支えきれなかった大粒が、頬を伝う。
もう雛菊はそれを拭おうとはしなかった。
「そうよ。」
「詳しい事は聞きませんが…さっき言った事は本気なんですか?」
雛菊は、顔をしかめて修平を見る。修平は雛菊の顔を真っ直ぐ見据えた。
「どういう意味?」
「誰でもいいって言いましたよね。俺は二人の関係は知りません。だけど…誰でもいいと思ったのは雛菊さんなんじゃないですか?」
雛菊の目がつり上がるが、修平は気にせず続けた。
「傷付くのが怖いだけでしょう?雛菊さん、あなたは」
じっと修平は雛菊を見据える。
「逃げたんだ。」
「違う!!」
雛菊は叫んだ。
「私は逃げた訳じゃない!逃げたのは銀の方なんだから!」
「今だって逃げてるじゃないですか。」
「え…」
修平は、無理矢理雛菊を自分の胸に押し付けた。
「泣いていいんですよ、無理しないで下さい。もう、弱い自分から逃げなくてもいいんです。」
「ばかじゃないの……」
雛菊の噛み締めていた唇が割れて、震えだす。
目尻が下がり、憂いの潤いをおびてきて、やがてツーと雫がこぼれた。
細い二筋の涙はみるみる太さを増し、激流と化していく。
唇の端からは壊れた笛のような嗚咽が漏れてきた。
雛菊は修平の胸で思いきり泣いた。
しばらくして、雛菊は泣きやむと、そっと胸を押して修平から離れる。
「胸貸してくれてありがとう」
鼻をすすりながら雛菊は、礼を言った。声が自然とかすれた。
修平は、にこにこしながら、ハンカチで雛菊の顔を拭く。
「雛菊さん泣き顔不細工ですね。」
「五月蠅い。」
「そんな雛菊さんも好きですけど。」
「……。」
雛菊は呆れた顔をして、修平を見た。