Authorization Lover-VOLUME8--2
数分前の事だ。
修平は、資料室で今までの宣伝部のやってきた業務を調べていた。
今はパソコンにデータが入っているものだから、第三資料室は廃れていて、本棚には埃がたまっていた。
修平は、ため息をついて資料を探し出した。
そんな時、市井銀と雛菊が突然入って来たのだ。
修平は、雛菊が市井銀とやり合うのを見てしまった。
「事故…嘘…かず」などとかすれた声が聞こえた。
低い声で話してはいたのであまり聞こえなかったが、尋常ならない雰囲気はあった。
そして突然、市井は「うるさい!」と怒鳴って部屋から出ていった。
部屋にはしんとした空気が流れた。
修平は完全に出るタイミングを逃した。
雛菊は息を吐いて、側にあった椅子にどかっと腰を掛けた。物思いに浸っているらしい。
修平はどうやって出よう、と思索したがいい考えなど出てこない。
仕方なく、修平は雛菊の前に姿を現した。
「修…へい。」
雛菊は、大きい目をさらに大きくして修平を凝視した。
「すいません。見るつもりはなかったんですけど…」
修平は頭を下げながら遠慮がちに言った。
「見られちゃったか…」
雛菊は、悲しげに狭い天井を仰いだ。意外にも、雛菊は修平の盗み聞きを責めなかった。
いつもと違い、雛菊は何と無くボンヤリしている気がする。
「市井専務とどういう関係なんですか?」
修平が思いきって尋ねると、雛菊は急に厳しい顔になる。そしていきなり喋りだした。
「人なんてどいつもこいつも寂しい連中じゃない?やっぱり一人でいるのが不安でしょうがないのよね。仲間とつるんでいて初めて自分の役割がはっきりして、それを確認できるんだから。誰か親しく接してくれる人と一緒でないとどうしていいか解らなくなるのよ。」
そこで息をついて、雛菊は唇を噛んだ。
「…銀は誰でも良かったのよ。」
今にも泣き出しそうな、悲痛な顔で雛菊は呟いた。
涙を堪える女は、可愛い。
ふられた女、別れを経験した直後の女に、自分で良かったらと男が言い寄るのは「今なら落とせる」と安易な勝算を見込んでの事ばかりではないと、修平は思う。
女は、泣けば押し並べて醜い。だが、それを堪える女はむしろ可愛いし、色気がある。
そこに男心は揺れる。
抱き締めたくなる。