甘辛シロップ-5
神は必ず予測された真実に辿り着く。 …機械仕掛けの神のように
" 狂いが無ければ全て成功する "
…もし万一、狂いがあったとするなら……
それは狂いでは無いのかもしれない。
電光石火の如く、私の右足が風を切る。
身長差を考えると、恐らく…直撃するのは測頭部。
後の一撃で逝っても知りませんからね、自分を恨んで下さい。
「S……ひっ!?」
………あれ?
轟音が鳴り響き、鋼鉄性の長方板が軽々と吹き飛びました。
…つまりは破壊でしょうか。
うら若き高校女児が一蹴りで扉を破壊…。 昔だったら「セーラー服が回し蹴り」
…こんなフレーズでゴシップ記事に載りますね。
まあ、はい、意外に結果オーライです。 結局殺人にはならなかったってことですし。
相手が『雪柳 透』だったなら喜んで殺しますが……とりあえず…
そう! 結果オーライということで!
もし…もしもですよ?
扉から出てくる人物が雪柳透以外の人物で、その上雪柳透と同じ身長だったら
…どうなってたんでしょう…?
「こ、こんにちは。 秀麻凪と申します。 現役女子高生で、ええと………貴方のお名前は?」
上手く開脚された姿勢で、ぺたりと地に尻を付けているエプロン姿の彼女。
正に高嶺の花の様で、美しい長髪を持ち、そして愛らしき童顔。
こちらを見据える丸い黒眼がチャームポイントの一つとでも言っていい。
ぶるぶると震えるその姿は、虎に追い詰められた子鹿…。
ゆっくりと倒れていくその姿は、毒リンゴを食らってしまった白雪姫…。
──ばたんきゅう、そんな音が聴こえた平日の夕日時。
「すす、す、すみませんでした! 本当にすみませんでした!!」
「いえいえ…大した外傷も無い様でしたから、お気になさらずに…」
「……は…はい…」
気を使ってくれてる気がしてなりません…。
私が蹴り飛ばしたあの扉は、どう見ても傷だらけでした。
罪悪感に包まれまくりです、私はどうしたら…。
と、ここで気分を変えて、目の前にいる高嶺の花さんの紹介でも…
「…あ、お客様が来ているのに…お茶菓子を忘れていました」
「え、いや、あの」
「紅茶は…アッサム、ダージリン、ニルギリ、トラバンコール、シッキム…どれがお好みでしょうか?」
「へ? …あ……アッサムティーでお願いします…」
「かしこまりました」
……アッサムしか知らない私って、一体……。