甘辛シロップ-4
「ははっははは……ふははははははははははは!!」
もう一人の私、高らかに笑うのは構いませんけども、
せめて小声でお願いします。
「あはっ………ははははははは!!!」
ああ、止めて下さいまし、もう一人の私。
通りすがる人々全員が、痛い人を見るような目で私を見てきます。 私、
見られちゃってます。 あーやだやだやだ。
やっと着きました。
見た目から言わせてもらえば、相当大きい感じですね、一軒家のくせして。
そういえば現役会社員父君と二人で暮らしている、なんて情報をどこかで聞いた記憶が…。
…言い換えれば、一人暮らしと大して変わらない…ということですね?
………さて、と。
このボタンを押せば、始まりにして終わりの鐘が鳴る。
出てきたらすぐにやるか、気絶させてそこからじわりじわりと拷問にするか…
ええい、考えても仕様がない! 成せば成る!
「…ぽちっと」
心の内側にあるメトロノームが、一定の間隔で音を刻ませる。
このリズムはフォルティシモ。
強く、強く、もっと強く、もっと激しく、芯が壊れるまで…
─がちゃり。 音が響き、私を中心に世界が回ろうとしている。
そして……
「………殺………っ!!」
人間は" その物事 "に集中すれば集中するほど、それぞれの感覚が研ぎ澄まされていく。
たとえば、この場合
扉が開かれる、わずか一・二秒の瞬間。
私はありとあらゆる沢山の情報を『味方』に付け、予測出来る限りのパターンを
恐ろしい速度で計算し、これから『結果』を作りだそうとしている。
扉(本体)との距離は中距離
周りには何もない
尽くせるのは我が身だけ
出てくる人間は誰か? そんな疑問は解決している、奴しかいない
内側から押して、外側から引いて開ける開閉式の扉
ならば……
奴が視界に入る直前! 左足を軸にし、右足で後ろ回し蹴りを叩き込む!
開かれようとしている瞬間、私に神が宿った。