甘辛シロップ-10
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束の間の談笑を充分楽しみ、いざ帰宅路地に着いている私は、隣で歩くショウちゃんから
重大な事を聞かされ驚いている最中です。
「ええええっ!? 聖奈さんって…ほ、本当にハーフ…!?」
「あれ、やっぱり聞いてなかったんだ」
その上、あの屑野郎に姉君がいると聞きました。 父君はどこかに
行ったっきりで長期不在…とも。
「つまり聖奈さんを除けば、結果的には二人暮らし…じゃないですか! 危ないですよ姉君!」
「いや……酷な事態には陥らないと思うけど」
噂は噂で終わり、初めて会っただけですが……うん
お友達が増えたのは、良いことです。
「……笑ってませんよ? もし笑ってたとしても、嬉しくて笑ってたワケじゃありませんから…」
「…別に聞いてない」
「ショウちゃんに向かって言った台詞じゃないです」
「じゃあ誰にだよ…」
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何がおかしくて笑っているのかわからない。
…不思議と口角が上がってしまう。
おかしいんじゃなくて、嬉しいのかも。 そんな風に思いながら
じゃがいもの皮を巧みに剥いていく。
「…聖奈さん、今日は一段と笑顔が輝いてんなぁ」
「そうですか?」
「………ああ」
きっと透くんは察してくれた、私の微笑みの爆弾を。
「えと、由紀奈ちゃんは何時頃に?」
「バイトだったっけか。 まあでも晩飯までには帰ってくると思う」
「それじゃあじっくり煮込まないと」
「…クリームシチュー? カリフラワーはやめてくださいよー…」
「あはは、さすが姉弟ですね…。 でも野菜も食べなきゃだめですよ?」
そう言いつつ、私はブロッコリーとカリフラワーを手に取り、心の底から笑った。
〜fin〜