故蝶の夢〜幼き日の出会い〜-3
「だから、お前・・・こんな所にまで俺を、迎えに来ちゃったんだな・・・」
多輝の声が、震えた。
私ははっとした。
多輝が・・・泣いている?
私からは後ろ姿しか見えないけど、確かに・・・
それにロジーのことも知っていた?
「散歩、できて嬉しかったか・・・?こんな広い場所・・・初めてだもんな?」
ロジーを強く抱きしめる。
私は涙を堪え切れなくなって、両手で口を塞ぐ。
塞いだ口からは我慢出来ずに嗚咽が漏れてしまう。
今まで平気そうにしていた多輝。
でも、そんなわけない。平気なわけ、ないよ。
あいつを抱きしめたい衝動を必死で押さえ込んだ。
多輝はさっきから持っていた骨を綺麗な指でなぞった後、遠くに向かって投げた。
それを見たロジーは、きゃん!と一声鳴くと、すぐに追いかけていく。
その途端
草原が、ロジーが。
砂のようにさらさらと崩れていった。
ザァッと全てが幻であったかのように飛んでいく。
私は涙を拭おうともせず、呆然とその様子を見ているだけだった。
すぐに私たちは光る道の上に戻された。
当然の如く、ロジーの扉は消えており、ただ闇だけが目の前に残される。
(こうやって皆消えていくの?)
私は突っ立ったまま動かない多輝を見た。
その後ろ姿は何を考えているのか分からない。
ただ、多輝が悲しんでいるのが分かったから、それが、ひたすらに辛かった。
ただ、辛かった。
「あいつはちゃんと逝けたかな・・・?」
こちらを振り向かないままで、問いかける。
「うん。ロジーは、先に行って、元気にやってるよ。ずっと、ずっと、多輝が来るのを待っててくれるから・・・」
だから、
まだ逝かないで・・・
「そうだな。もうちょっと待っててくれな、ロジー。」
多輝は上を仰ぎ見る。当然そこには闇が広がるだけだけれども、まるで天国がそこにあるかのように、遠くを見つめる。
私は胸が抉られるような気持ちを拭え去れない。
本当は私だって分かっている。
気づかないようにしてきた悲しいこと。
私も、お別れの時が、近づいているのだ、と。